2010年 5月 1日 (土)

       

■ 〈保坂嘉内の短歌〉149 望月善次 新橋の富華が贈ると

 新橋の富華が噌ると播磨屋のあかるき
  緞帳はあはれなるかな。
 
  〔現代語訳〕新橋の富華が贈った播磨屋の明るい色の緞帳もしみじみとしたものだと、私には思われるのです。

  〔評釈〕「都市居住者」九首〔「東京雑信」、『アザリア』六号(大正七年六月二十六日)〕中の最終歌。「噌」は、『新校本宮澤賢治全集』の疑問符をも踏まえて「贈」の誤記だとした。第四句の「緞帳(どんちょう‖芝居・劇場などで使う、上に竿があって巻きあげ巻きおろす幕〔『広辞苑』〕」は、短歌定型の五七五七七の制約から、訓(よ)みを「まく」とした。「播磨屋」は、中村吉右衛門一門の屋号。初世の中村歌六が養家播磨屋の屋号をそのまま使用したのに始まるという〔『マイ・ペディア』〕。なお、歌舞伎等における屋号は、家元制度に関連した一種の流派名で、名優の芸の「型」の伝存の象徴の意味もあるという〔『日本大百科全書』〕。「あかるき緞帳」は、どうして話者の心を引きつけるのか。明るさや豪華さそのものが素直に話者の心に訴えかけたのだとする説と並んで、嘉内の当時の追いつめられた暗い心が、その対照物としての明るさをとらえたのだとする「深読み」も発生する余地もあろう。
(盛岡大学学長)

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