2010年 5月 9日 (日)

       

■ 〈早池峰の12カ月〉44 丸山暁 情報でお里が知れる

     
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  今年は特に待ちに待った春だが、ここに来てモクレン、レンギョ、ユキヤナギ、ヒュウガミズキなど、一気に木々に花が咲き乱れてきた。山も里でも桜が満開である。

  僕は「木に咲く花」が好きである。秋に葉を落とし、冬を裸で耐え新芽を育て守り、枯れ木に花のたとえのごとく、春一気に花開く。「木に咲く花」には、草花の花のかわいらしさ、あでやかな美しさと違って、どこか痩(や)せ我慢の潔さ、粋な美を感じるのである。

  また、この地に来て、山桜やハナミズキなど山の「木に咲く花」の彩りに驚かされた。

  思い返すに、僕が「木に咲く花」が好きになったのは、先のようなへ理屈もあるが、「木に花咲く」という本に出会ったことも大いに関係しているという気がしている。

  会社勤めのころ、半ドンの土曜日は、銀座の本屋とレコード屋を一巡して帰宅するのが決まりだった。そんなある日、書棚の「木に花咲く」という本が目に入った。面白い題名なので手にとって見ると、読みやすい文章なのだが少々難解でシリアスな戯曲だった。

  そのとき初めて別役実という劇作家を知ったが、それ以来題名の面白さに惹(ひ)かれ「淋しいおさかな」「象は死刑」「天才バカボンのパパなのだ」「黒い郵便船」「電信柱のある宇宙」など読みあさり、別役ファンとなった。そして、そのきっかけとなった「木に花咲く」という言葉が心から離れなくなり、いつしか「木に咲く花」が好きになったと分析する次第。

  別役は、僕が楽しみにしていた童話「そよそよ族伝説」の執筆途中で死んだと思っていたのだが、インターネットのウィキペディアではまだ生きていることになっている。

  最近、学生や大学の先生も論文に、匿名書き込みのウィキペディアの情報を利用するものがあると問題になっているが、別役実の生死やいかに。人間の闇を書く別役先生のこと、もし生きておられるとしても、僕の勘違いを笑って許してくれるだろう。

  数年前本を出した時、原稿にガウディ未完の聖家族教会を「サグラダ・ファミリア」と書いたら、編集者が「サクラダ・ファミリア」と訂正してきたので再訂正すると、編集者曰く、「インターネットで調べたらサクラダ・ファミリア」とあったと言い張る。

  インターネットというやつは、匿名性をいいことにあることないこと垂れ流すが、どの情報を選択するかに情報の価値があり、利用者の品位、教養、お里まで知れてしまう。

  そんなアホな編集者を雇っていた出版社だからつぶれてしまったが、本に罪はない。『西欧「偶景」今昔話』(絵/文、丸山暁)、旅の詩情豊かな文明論、手前みそながらいい本です。

  (丸山暁建築・空間工房、大迫・外川目在住)

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