2010年 5月 13日 (木)

       

■ 〈保坂嘉内の短歌〉154 望月善治 風ふけば夕陽の雲は

 風ふけば 夕陽の雲は 揺るるごと 
  初夏のすがたは あはれなるかな。
 
  〔現代語訳〕風が吹いたので、夕陽に輝いている雲は揺れているようです。ああ、初夏の風物は何とも言えない思いをもたらすのです。

  〔評釈〕「東京夕景集」十一首〔「東京雑信」、『アザリア』六号(大正七年六月二十六日)〕中の五首目。「風」は、農業にとって重要なものであったから、古代においては神聖な「鳳」に始まり、風が吹くと万物を動かすから「虫」なのだとする解説〔『角川漢和中辞典』〕を興味深く読んだが、風はまた、古来多くの人の心を動かし、考える契機を与えて来た。揺れているのは「夕陽の雲」だけではなく、話者こそが揺れているのだということは、読む者の多くを納得させよう。「あはれなるかな」と詠嘆する「初夏のすがた(姿)」も、言うまでもなく「夕陽の雲」だけではなく、話者をも包む世界であろう。ただし、結句「あはれなるかな」と詠嘆した場合、この感動が読者の深部にも染み通るか否かとなると話は別であろう。作品に即して言えば、「風ふけば 夕陽の雲は 揺るるごと」という前半の表現が「あはれなるかな」を支え切れているかということになる。「無理だな」というのが評者の結論。
  (盛岡大学学長)


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