2010年 5月 18日 (火)

       

■ 〈イタリアンチロルの昼下がり〉96 及川彩子 刺繍が語る歴史

     
   
     
  ここアジアゴのわが家の近所のサブリナおばさんは、レース編みの名人です。家を訪ねるとクッションから花瓶の花まで、レース編みでいっぱい。それを季節ごとに模様替えし、いつ訪ねても目を楽しませてくれます〔写真〕。

  サブリナおばさんにはかないませんが、イタリアでは、誰でも気軽に楽しめる「プント・クローチェ」という刺繍(しゅう)が人気。×印の連続で模様を編む、色彩遊びのような刺繍で、私も長女の誕生以来、十数年も夢中になっています。「プント」はレース、「クローチェ」は十字架を意味します。

  大抵どの家にも1つや2つ、プント・クローチェのテーブルクロスなどがあって、時には「祖母が何年もかかって仕上げたの」と、まるで点描画のような大作に出会うこともあります。

  子どもの誕生、新入園や入学などの祝い事があると、プント・クローチェを施した品々を用意するイタリアの女性たち。こうした習慣を知らなかった当時、長女の出産時に、友だちから「ルチア」と名前入りのシーツや、よだれ掛けを贈られ大感激。以来、私も刺繍針を持つようになったのです。

  刺繍の元祖「レース」誕生の地は、16世紀のベネチア。詩人へルマン・ヘッセも「ゴンドラ話」の詩の中で、「乙女たちのレース台の、白いすらりと伸びた指。私も、白絹のレースのクッションを選んだ」と詠んでいます。

  魚網の糸を「編む、撚る、組む」の技術が、レースに発展、それが17世紀になってパリに伝わり、高度な技術で編む複雑なフランス刺繍の誕生につながるのです。

  産業革命後、編み機の登場で手編みが衰退、今のベネチアで売られているレースのほとんどが中国製。1a四方の枠に、100本もの糸を編み込んだ当時の「ベネチア・レース」の再現は不可能と言われます。それだけに、気軽に楽しめるプント・クローチェが、大切にされているのかも知れません。

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