2010年 5月 20日 (木)

       

■ 〈保坂嘉内の短歌〉157 望月善治 うたひ女は叫べるように

 うたひ女は 叫(オラ)べるやう(に?)うたへども 小唄の本は いまに売れざる。
 
  〔現代語訳〕(小唄を)歌っている女は、叫ぶように(懸命に)歌っているのですが、小唄の本はまだ売れておりません。

  〔評釈〕「東京夕景集」十一首〔「東京雑信」、『アザリア』六号(大正七年六月二十六日)〕中の八首目。第二句の「叫べる」には「オラ(べる)」のルビが付いている。嘉内のノートでは、当初、第二句は「声高うして」、また、第四句から結句までは「唄本売れず若き柳よ」であった。「小唄」は、江戸末期に清元の余技から始まり、ちょうど大正期がお座敷芸から演奏会形式に転じる時期。「おらぶ」は万葉集(一八〇九)にも「天仰ぎさけびおらび」と出てくる語だが、現代語としての使用は多くなく方言だと信じている人もいるほどで、「さけぶ」と比べて「強調」の役割を果たすことになろう。「うたひ女」は、小唄を声高く歌い、その本を売ろうとしているのだが、その懸命さにもかかわらず、本は売れないのである。一生懸命さに対する共感は、嘉内の特徴の一つであるが、ここでは、懸命に生きようとしているのだが、順調に行かない自身とも重ねての同情なのだという深読みもしたくなるところ。
(盛岡大学学長)

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