2010年 5月 29日 (土)       

■ 〈保坂嘉内の短歌〉160 望月善治 過激派の労働者よと

 過激派の労働者よと 電車ぬちに 酔
  うひて叫べる車夫(車は人偏付き)は
  愛らし。
 
  〔現代語訳〕「過激派の労働者よ」と電車の中で、酔って叫んでいる車夫は、愛らしく思われるのです。

  〔評釈〕「東京夕景集」十一首〔「東京雑信」、『アザリア』六号(大正七年六月二十六日)〕中の最終歌。嘉内の生きた時は、時代が大きく動いた時であった。思想統制の波は、既に嘉内も大きな影響を受けた『一握の砂』の啄木の上にも及んでいた。「大逆事件」(一九一〇)はその象徴的事件であった。「第一次護憲運動」(一九一三)から「大正デモクラシー」の盛り上がり(一九一九〜一九二〇)と「普通選挙法」と「治安維持法」(一九二五)等を、嘉内は、同時代人としてのその空気を吸ったのである。この潮流は、海外の「第一インターナショナル」(一八六四)から「第二次ロシア革命」(一九一七)と至る流れと関連を有するものであったし、嘉内の「不当な退学処分」もこうした大きな流れと無縁のものではなかったのである。「平和的社会民主主義」と「革命的共産主義」も社会主義をめぐる二大潮流。「過激派」は後者に近いが、「車夫」を通し、同情的な話者がいる。
  (盛岡大学学長)

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