2010年 7月 8日 (木)

       

■ 〈音読・現代語訳『あこがれ』石川啄木〉2 望月善次 沈める鐘その3分の2

     
   
     

 尊い『秘密』を心として鳴っている鐘の音よ
  二
朝(あした)に、夕(ゆふべ)に、はた夜(よ)の深(ふか)き息(いき)に、
白昼(まひる)の嵐(あらし)に、擣(つ)く手(て)もなきに鳴(な)りて、
絶(た)えざる巨鐘(おおがね)、―自然(しぜん)の胸(むね)の声(こえ)か、
永遠(とは)なる『眠(ねむり)』か、無窮(むきう)の生(せい)の『覚醒(さめ)』か、―
幽(かす)かに、朗(ほが)らに、或(あるい)は雲(くも)にどよむ
高潮(たかじほ)みなぎり、悲恋(ひれん)の咽(むせ)び誘(さそ)ひ、
小貝(をがひ)の色(いろ)にも枯葉(かれは)のさゝやきにも
ゆたかにこもれる無声(むせい)の愛(あい)の響(ひびき)。
 
悵(いた)める心(こころ)に、渇(かは)ける霊(れい)の唇(くち)に、
滴(したた)り玉(たま)なす光(ひかり)の清水(しみづ)めぐみ、
香(かお)りの雲(くも)吹(ふ)く聖土(せいど)の青(あお)き花(はな)を
あこがれ恋(こ)ふ子(こ)に天(あめ)なる楽(がく)を伝(つた)ふ
救済(すくひ)の主(あるじ)よ、沈(しず)める鐘(かね)の声(こえ)よ。
ああ汝(なれ)、尊(とう)とき『秘密(ひみつ)』の旨(むね)と鳴(な)るか。
 
  二
朝にも、夕べにも、また夜の深い息にも、
真昼の嵐にも、[鐘を]撞く手も無いのに鳴り続け、
(その音が)絶えることのない巨大な鐘よ、――(その響きは)自然の胸の声でしょうか、
永遠の『眠り』[の響き]でしょうか、無限の生命の『覚醒』[の響き]でしょうか――
幽かに、朗らかに、または雲に響き
高潮が溢れ、悲恋の咽びを誘い、
小さな貝の色にも、枯葉のささやきにも
豊かに含まれている無声の愛の響きでしょうか。
 
嘆き悲しむ心に、乾いた霊の唇に、
滴って玉をつくっている光の清水を恵み、
香る雲が吹く、聖なる土地の青い花を
あこがれ恋焦がれる人に天上の音楽を伝える
救世主よ、沈んでいる鐘の声よ。
嗚呼(ああ)お前は、尊い『秘密』を心として鳴っているのですね。


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