2010年 7月 22日 (木)

       

■ 〈音読・現代語訳『あこがれ』石川啄木〉6 望月善次 啄木鳥

 霊の住み処であるこの森にも巷の塵は押し寄せようとしています。啄木鳥はそれを守るべく霊妙な務めをしているのです。
 
  啄木鳥(たくぼくどり)
いにしへ聖者(せいじや)が雅典(アデン)の森(もり)に撞(つ)きし、
光(ひかり)ぞ絶(た)えせぬ天生(てんせい)『愛(あい)』の火(ひ)もて
鋳(ゐ)にたる巨鐘(おほがね)、無窮((むきゅう)のその声(こえ)をぞ
染(そ)めなす『緑(みどり)』よ、げにこそ霊(れい)の住家(すみか)。
聞(き)け、今(いま)、巷(ちまた)に喘(あへ)げる塵(ちり)の疾風(はやち)
よせ来(き)て、若(わか)やぐ生命(いのち)の森(もり)の精(せい)の
聖(きよ)きを攻(せ)むやと、終日(ひねもす)、啄木鳥(きつゝきどり)
巡(めぐ)りて警告(いましめ)夏樹(なつぎ)の髓(ずゐ)にきざむ。
 
往(ゆ)きしは三千年(みちとせ)、永劫(えうごう)猶(なお)すすみて
つきざる『時(とき)』の箭(や)、無象(むしやう)の白羽(しらは)の跡(あと)
追(お)ひ行(ゆ)く不滅(ふめつ)の教(おしへ)よ。|プラトー、汝(な)が
浄(きよ)きを高(たか)きを天路(てんろ)栄(はえ)と云(い)ひし
霊(れい)をぞ守(まも)りて、この森(もり)不断(ふだん)の糧(かて)、
奇(くし)かるつとめを小(ちい)さき鳥(とり)のすなる。
                (癸卯十一月上旬)
  〔現代語訳〕
  啄木鳥
昔の聖者(プラトン)がアデン(ギリシャ)の森で撞いた、
光が絶えない天然に生じたの『愛』の火で
鋳造した巨大な鐘、尽きること無いその声を
染め上げた『緑』よ、本当に(ここが)霊の住家です。
お聞きなさい、今、巷に喘いでいる塵の突風が
寄せて来て、若い生命の森の精の
清らかさを攻めようとするのを、一日中、啄木鳥は、
(森の中を)巡って警告を夏の樹の髄に刻んでいるのです。
 
過ぎたのは三千年、時は流れて
尽きることのない『時』の矢だと言えましょう、形の無い白羽の跡を、
追い行く不滅の教えよ。―プラトンよ、あなたが
清らかさと高貴さを天路の栄光と云った
(その)霊を守って、この森の絶えることのない糧で、
霊妙なつとめを小さき鳥(啄木鳥)はしているのです。
           〔明治三十六(一九〇三)年十一月上旬〕


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