盛岡タイムス Web News 2010年 10月 3日 (日)       

■ 〈音読・現代語訳『あこがれ』石川啄木〉24 望月善次 暁鐘

 暁の鐘は、雲の車を操る女神による、愛の鈴の余韻であり、桜の花を枝枝に咲かせ、散る花によって全ての地に錦を敷くのです。
 
蓮座(れんざ)の雲渦(くもうづ)光(ひかり)の門(かど)に靉(ひ)くや、
万朶(ばんだ)の葩(はなびら)黎明(あさけ)の笑(ゑみ)にゆらぎ、
くれなゐ波(なみ)なす桜(さくら)の瑞花蔭(みづはなかげ)、
下枝(しづえ)の夢(ゆめ)吹(ふ)く黄金(こがね)の風(かぜ)に乗(の)りて
ひびくよ、暁鐘(げふしやう)、│ 無縫(むほう)の天領綸(あまひれ)ふり
雲輦(うんれん)音(おと)なく軋(きし)らす曙(あけ)の神(かみ)が
むらさき紐(ひも)ある左手(ゆんで)の愛(あい)の鈴(すゞ)の
余韻(なごり)か、│朗(ほが)らに高薫(かうくん)乱(みだ)し走(わし)る。
 
見(み)よ今(いま)、五音(ごいん)の整調(せいちやう)流(なが)れ
〓〓
光(ひかり)の白彩(しらあや)しづかに園(その)に撒(ま)けば、
(浄化(じやうげ)の使命(しめい)に勇(いさ)みて、春(はる)の神(かみ)も
袖(そで)をや揺(ゆ)りけめ、)綾雲(あやぐも)融(と)くる如(ごと)く、
淡色(あはいろ)焔(ほのほ)と枝毎(えだごと)かぜに燃(も)えて、
散(ち)る花(はな)繚乱(りやうらん)満地(まんち)に錦(にしき)延(の)べぬ。
               〔甲辰(きのえたつ)三月十七日〕
 
  暁鐘〔現代語訳〕
 
(尊い)蓮の座の、雲の渦が、光り輝く門に盛んにたなびき、
沢山の花びらが朝明けの笑みのように揺れ、
紅の波をなす桜の花蔭に、
下枝の夢を吹く、黄金の風に乗って
ああ、響くのです、暁の鐘が、│縫い目のないひれを振り
雲の車を、音もなく廻す曙の神が
(紫の紐のある左手の愛の鈴の
余韻でしょうか)、│朗らに高い薫をまき散らしながら走るのです。
 
ご覧なさい、今、あの「五音」の整った調べが流れ
光の白い彩を、静かに園に撒くと、
(「浄化の使命」に奮い立って、春の神も
袖を揺らしたのでしょう、)入り組んだ美しい雲は、融けるように、
(「桜の瑞花蔭」)淡い色は、焔のように、風と共に枝枝に燃えて、
散る花もまた、咲き乱れ、さながら、全ての地に、錦を敷いたようなのです。
               (明治三十七年三月十七日)

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