盛岡タイムス Web News 2010年 10月 7日 (木)       

■ 〈お父さん絵本です〉328 岩橋淳 赤トンボ

     
   
     
  秋。空が高くなって、鰯雲をバックに郷愁を誘うのは、赤トンボの群です。とくに夕方でなくても、きままにぷい、と中空を行き来する様は、思わず話しかけたくなるような気持ちにさせられます。

  本作は、これまでにもシリーズとして何作かをご紹介した、写真家・今森さんの連作のひとつ。里山をテーマに、人と動植物との接点をとらえては第一人者の名匠。本シリーズの値打ちは、ただ写真だけを並べるのではなく、被写体の生態について、ことこまかに、わかりやすく、解説してくれるところ。その写真と文章からは、いきものに対する愛情が切々と伝わってきます。

  春の水田で、出会った、体長わずか数ミリのヤゴ。初夏、じっと見詰めた羽化。…かれらは「秋」のものかと思いきや、夏にはもう、飛び回っているんですね。合間合間に語られる、種族について、からだのつくり、生態について。あぜ道に座り込み、寝そべり、あるときは山に登り、氏とトンボたちの言葉無き対話は、続けられます。

  やがてやって来る、次の世代にバトンを渡した者たちの、おごそかな退場。しかしそれは神々しくさえあり、来年の生命への期待に満ちています。私たちのごくごく身近で繰り返される小さなドラマの積み重ねに対し、敬虔(けいけん)な思いを禁じ得ません。

  【今週の絵本】『赤トンボ』今森光彦/文・写真、アリス館/刊、1470円、(2010年)

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