盛岡タイムス Web News 2010年 10月 28日 (木)

       

■ 〈お父さん絵本です〉331 岩橋淳 フェドーラおばさんおおよわり

     
   
     

 作者のコルネイ・イヴァーノヴィチ・チュコフスキー(1882〜1969)は、ソビエトからロシアへと激変した社会体制下にもその評価が揺るがなかったという、ロシアの高名な文学者にして翻訳家、児童文学者。『ごきぶり大王』なんというトンデモ絵本(原作)を手がけているかと思えば、『2歳から5歳まで』という育児書の名著ものこしてもいる才人です。

  さて本作は、人、いや道具使いの荒いフェドーラばあさんに憤懣(ふんまん)やるかたない家財道具たちの逃亡劇を描いているのですが、地の文、せりふ、そのすべてが七五調なのです。……、これは翻訳者の技によるところが大きいのでしょう(原文ではどのように表されているのか?)が、とにかく全編が、とっとことっとこと転がっていくような心地よさ。日本人の心の奥底にしみこんだリズム感が覚醒するかのよう…、いやまてよ、これはロシアのお話。けれど、マザーグースの例を引くまでもなく、韻を踏んだりしながら取られる言葉のリズムの楽しさは、万国共通だと言えるでしょう。

  ところでフェドーラばあさん、どうして道具たちに嫌われてしまったのか? 身寄りのない一人暮らし、かつてはあったであろうたくさんの家族、その残映とも言うべき、多くの家財道具。…、老人の心の奥底にあったのは、寂しさだったに違いないのです。腹立ち紛れに出奔した道具たちですが、結末の歩み寄りと和解に、ほっとさせられるのでした。

  【今週の絵本】『フェドーラばあさん おおよわり』K・チュコフスキー/作、V・オリシヴァング/絵、田中潔/訳、偕成社/刊、1470円(2001年)。


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