盛岡タイムス Web News 2010年 11月 24日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉204 伊藤幸子 戦車とネギ

 月のない夜の環八に運ばれる戦車見ており葱下げてわれ
                         奥山ひろみ
 
  第2回「角川全国短歌大賞」作品集より。自由詠大賞受賞作。応募総数6884首から選ばれたもので、ことし2月の選考会には、河野裕子さんも7人の選考委員のひとりとして元気に発言されている。

  一読、東京の夜の環状8号線を搬送される戦車とネギのとり合わせの妙に感じ入った。作者は練馬区駐屯地のすぐ近くにお住まいで、障害者施設に勤務。帰宅は夜9時ごろという。たまたまその時間帯に戦車を積んだ大型車を見てそのまま詠まれたとのこと。歌歴10年、短歌が日常とひとつになっていると評された。

  この賞には自由詠と、各都道府県の特質を詠む題詠部門の二つがあり、後者大賞には「『入れてんか』半歩詰めては一人増(ふ)ゆ梅田地下街立ち呑み串屋」大阪府の武富純一さんの作品が選ばれた。作者の弁として「二十数年通っている串屋が舞台。歌を作ることは暮らしの一部になっていて、大賞をもらったよと店に報告に行かなくては。今は短歌抜きの人生は考えられない」と笑う。如何にも大阪人。景色や芸能、災害等も風土色には違いないが、この市井の人々のわきたつ活力が実にいい。

  他に私が惹(ひ)かれた作品に、米川千嘉子選者賞の次の一首がある。「都会でもなく田舎でもない〈つくば〉の地息子を育てたりハイブリッド風に」山川澄子。おそろしく破調。語呂は悪いがなんとも味があり、「ハイブリッド風の息子」の表現に頬がゆるんだ。

  つくば学園都市。まるで映画にでも出てくるような無機質な人工都市として不評のころもあったが、今は環境も住む人々も歳を重ね、奥行きある学園街になっているようだ。ハイブリッド車はガソリンと電気の、異質な物の組み合わせによる未来型エコ自動車として注目されている。しかし女親としては、息子も含めて何かもやもやとした未知の部分がもどかしい。

  「くれないにのぼる炎の艶めける牡丹焚火の夕闇の空」佐藤祐禎選者賞、黒澤正行。福島の須賀川牡丹園では、11月第3土曜日の夜、恒例の牡丹焚火が行われるという。私は、えもいわれぬ芳香と故事来歴に基づき幾多の文人墨客の集う豪奢(ごうしゃ)な炎をこの目で確かめたいと願いつつ、まだ果たせないでいる。
(八幡平市、歌人)


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