盛岡タイムス Web News 2011年 1月 4日 (火)

       

■ 新連載〈幸遊記〉1 照井顕 ジャズが好き、人が好き

 僕にとって幸せなことは、何と言っても音楽を常に聴き続けてこれたことだ。

  音楽は実態のない幻想。言葉もそう。演奏している時、しゃべっている時には実在しているが、終わってしまえば消える。だが、見たり、聴いたりした人たちが感動したものは、その人たちの心に記憶あるいは印象として残る。

  やがて少しずつ薄れることはあっても、その人が生きている間は残り続ける。いずれ記憶はその人と共に消えるが、その消えた人を愛していた人の心の中には、その人が生きている限り存在する。

  だが自分自身の記憶をたどってみれば、そのほとんどが消えかかっていることに、毎日のように気付かされる。その消えゆくものを消さぬようにとするためには、いつも記録する作業が必要なのだが、筆不精の僕は、そのメモすらしないで来た。

  たとえメモを取ったとしても、そのメモをどこへしまったか忘れてしまえば、メモ(目も)あてられない。とシャレで過ごしてきた。そのことは、あいまいな記憶の話はできるとしても正確な記録とすることはできない。そのためには調べる時間が膨大に必要になる、僕自身へのツケなのだ。

  少年の頃に読んだ五木寛之の小説「海を見ていたジョニー」の一説に「ジャズを好きだってことは、人間を好きだってこと」という主人公・ジョニーの言葉があったと記憶する。自分が生きてきた道程を振り返ってみれば、さまざまな音楽と出合い、その音楽を歌い奏でる人や、それらを愛する人々との交流、そして親しくなった方たちからは、少なからず自分の生き方については影響を受けてきたのだと思う。

  僕を、63年前に産んでくれた母・キノエ。父・省平はもうこの世にはいないが、僕が生まれてから中学を卒業するまでの間に、僕という人間の形成に大きく関わっていたのだと今さらながら考えさせられる。記憶には無いが、もちろん兄や姉の影響も、たぶんに含まれているのだと思う。ジャズを好きになり人を好きになった僕の「幸遊記(こうゆうき)」を次回からつづってみようと思います。
(開運橋のジョニー店主)

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