盛岡タイムス Web News 2011年 1月 5日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉210 伊藤幸子 「書き初め」

 年賀状に自詠一首を毛筆に書ける習ひは友の奨めし
                        笠原忠勝

  新しい年の読み初めに、何を手に取ろうかと書架を見上げる。わがやの本たちのすみかは年末も年始もなく、乱々とひしめいている。そんな中、旧臘(ろう)頂いた新潟の方の第四歌集「爽」がしきりに私を呼んでいる。本を拝掌の折、一読してゆっさりと栞がはさんである。

  おのおのの家の正月風景。ことしもどっさり年賀状が届いた。新潟の中学校の校長先生をつとめられた笠原氏より頂く年賀状は毎年、流麗な筆字で歌が認(したた)められている。今まで30首ぐらいは頂いているはずである。

  「新年の遊(すさ)びに妻と筆を執り共に認む天与と二字を」「健やかに妻あり娘あり纏(まと)ひ寄る孫二人あり天与ならずや」昭和9年生まれの作者、年あらたまった座敷で奥様とふたり、書き初めをされる。それも思いをこめて墨痕あざやかに「天与」と書かれるという。気宇壮大、折目正しい生活の秩序が伺われる。

  「元旦のお笑ひ番組半ば倦(う)み倦みつつテレビを離れずにをり」「三日目はさすがに酒も億劫と言へば老妻得たりと笑ふ」なんとめでたいお正月。地デジテレビの高画質はいっそう人をひきつける。どの局も男も女も派手な着物姿、おめでたづくしの琴の音にほろ酔いで見なれたタレント達の画面につきあっている。

  「腹の立つ流行語なり『想定外』東電またも言訳に用ふ」正月も三日目あたりになると、お酒もおっくう、洪水のような言葉の乱れも気にかかる。昨年突然浮上した「断捨離」などは新陳代謝への意識改革を迫られて考えこんだ。

  「職持たぬこの八年の病歴を痛(や)む腰を撫で数へてゐたる」「休煙が千二百日超えたりと面白くもなく寝床で数ふ」愛煙家にとってタバコと別れる辛さは大変なものらしい。この「面白くもなく」がはたから見ればおもしろい。病歴を数え、休煙日数をかぞえているうちに、しだいにニトロ常備薬を持ち歩くようになられて、タバコとは訣別されたようだ。

  「何やらむ晴れがましさに満たされて元朝礼拝の奏楽を聴く」作者はまた聖堂に夫人と並んで賛美歌を歌われる敬虔な信徒。おお、外には「寒気団夜明けに去りし沖の方(かた)雪きらきらと佐渡島見ゆ」まぎれもない越の国の海鳴りが聞こえてくるようだ。
(八幡平市、歌人)


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