盛岡タイムス Web News 2011年 1月 21日 (金)

       

■ 〈野村胡堂の青春育んだ書簡群〜学友たちの手紙〉9 八重嶋勲 君、僕はたしかに君の親友だ

 ■岩動露子

  20 巻紙 明治32年4月11日付

宛 盛岡市四つ家町 猪川先生方 野村長一様 !
発 如夜又庵東□ニ 露葉生(岩動露子)

短刀直入は吾人の賛する所、いざ透谷云々のあたり涙が出て思はず力み出した、益々読むと益々寄読み終りても物足らぬ心地がした、なんのあ起(き)るどころか二度とくりかへした、余が雲夢に対する批評に答ふるところなどさてはとも思はれた、してこれにはまだ僕の説もある俳句も感服した、然し駄句てふものもありたらしいが、それを門の外にある吾人が言ふところでない、それから思ひ出したのは毎日新聞の竹冷子が撰んだ俳句だ、これを見んとてまづ借々ながら手紙を投じた、まづ「余は偉人文学に白旗を掲ぐるところ余の文が拙だ為か計らず君に誤解を受けた、我はあくまでも偉人文学には降参なんか嫌だ、絶対的嫌だ、交るもせん、白旗を掲ぐるといったのた例だから案じ給ふな、露葉はもとの露葉様だ、天外の孤独でないぞ、君、僕はたしかに君の親友だ、後来提(げ)て立つべき友(も)だぞ、由断はせぬもの兄き、さあ二人で純文学、神聖なる文学の為めにあばれよふ、余は小説云々は一寸感じた事がありたからいふたので、いまは君に言ってやりたのを後悔してる、露葉はもとの露葉だ、決して偉人文学に白旗を掲ぐるでもなく小説をやめるでもなしだ、

雲霧の批評は決して君の答辧は價ないとの日はん、ただその意味に於ても充分呑み込めぬ所はたしかにあるから、盛岡で大に談じやう、抱琴は交はるべき友で談るべき友でない、頗る穿ちた談だ、四技(肢)を挙げて大賛成だ、余も遠(く)からそふ思ふてゐた、かの鈴木月嶺一派と遠からぬ痴(しれ)者だ、然しだ、そは吾人が立脚地より言ふたので決した、交際上からいふのでない、即ち君が説に帰着するのだ、田子、中原連の事大々的痛快、生さとりか、何か田子のさとり方も危うき次第で中原の沈黙も所謂であろふ、

君が書状に就而の感、斯の如しだ、それから僕を誤解する勿れと申上候だ、もふ一つおまけに大次郎君だ、頗る面白しろき人物、出盛の即(節)は最も是非是非君の紹介で遊ぶ様にしたい、大に談じたい

○菊池健ちやんから投書がある、談じるには無論足らんが、歌などには白扇以上甘(く)もある、彼もやつばり偉人文学の血統だ様に見受けてゐるが詞才はあるよ、

○昨日(十日)六時三十五分着の直行を停車場に見舞ふたが、抱琴子を見つけかねた、遺憾千万だ、それに就而いつもながら佐藤大仰は日詰の二婦人を引卒ありて盛岡に向はれた、その口実に日を少し都合悪るければ思はず心に噴飯した、これもつまらん吾人が歯牙にかけるに足らんが、いつもながらその意氣に驚ろく?

○脚早々と錦芹記は従兄殿のところに行ってるから取らふと思ふたが、塵事がまぎれて読まんといふ仕方なし、少時待ち給へ、

○次は硯月の事だ、あたら手腕も硯月では物体ない、いざその説も取りけさふ、然し一説もこれにはある、乗り出すも出さぬもいづれも可、われも思へば乗り出さぬが善かろふ、

○明日(十二日)午後三時三十五分発で行く、

○事件早々運んで呉れ給へ、僕は寄宿舎が虫も好かなくなりたから、

○熱はこれきり時間もなくなりたから、いざ止めやふと思ふたとき黒旋風君を思ひ出しだ、我黨となり近きありとは可説、俳句もやるべし、新体詩はては小説もやれ、

○俳句は僕の門外漢、一つ君に就而でも教はろふ、是非一句位は出来ずとも批判する位にもありたい、
手紙やるのは野暮のやうだが、僕よりはさきたろふから如件、芋は承知と芦葉笛吹子に傳言なりたし、家では晩飯で呼ばれる仕方なくかく乱暴に!、
露葉生
   露影詞兄
 
  【解説】「北村透谷」は詩人・評論家。島崎藤村らと雑誌「文学界」を創刊。近代ロマン主義の先駆者。自殺。劇詩「楚囚之詩」「蓬莱曲」のほか、恋愛や精神的価値の意義を説いた評論「厭世詩歌と女性」「内部生命論」など。(1868〜1894)(広辞苑)この透谷の作品か作家論を論じ合っているのであろうか。

  「僕はたしかに君の親友だ、後来提(げ)て立つべき友だぞ」は、後に大活躍する胡堂を岩動露子がこの時点で予見しているのは面白い。「さあ二人で純文学、神聖なる文学の為めにあばれよふ」ともいっており、意気軒昂である。

  田子一民・中原隆蔵連の事大々的痛快とはどういうことか。「大次郎君だ、頗(すこぶ)る面白しろき人物、出盛の即(節)は最も是非是非君の紹介で遊ぶ様にしたい、大に談じたい」は、太田大次郎のことであろうか。

  明治31年、岩手県尋常中学校卒業、盛岡消費者組合理事。「菊池健ちやんから投書がある」は菊池健次郎。菊池寿人東京高等学校長の弟。医学士。日詰停車場通過の汽車に乗っているはずの原抱琴を見つけかねて口惜(くや)しがっているのも面白い。
(紫波町彦部公民館長)


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