盛岡タイムス Web News 2011年 2月 25日 (金)

       

■ 〈潮風宅配便〉17 草野悟 クリガニでうれし泣き

     
   
     
  まあ、あんまり見向きもされねえんだよ、おいら。最近の新聞やテレビのニュースでは毛ガニばっかり登場してさ。おいらたちは三陸の道の駅の隅っこで、まあ買うならどうぞ、って並べられてるだけだし…味はいいのに…ま、いいか。

  と、クリガニ君たちはひがんでおりますぞ。確かに無骨な顔立ち。にらみを利かせた目つきに堅そうな爪足。毛ガニのように甲羅を覆う毛は少なく、申し訳程度にちょびちょびとある程度なんですな。価格も毛ガニの半値以下。立派で重いクリガニ1杯300円程度。それでも一昔よりは十分価値が上がってきています。青森の蟹田という津軽半島にある港では、「クリガニまつり」で年々この脇役が主役にのし上がってきております。

  能書きはそのへんにして、待望の味見といたしますか。大きな鍋にたっぷりの沸騰した湯。塩をほんの少し入れまして「えーい、騒ぐでない」と一喝し、もだえるクリガニ君を鍋に逆さまに入れますと、足をバタバタさせて動きますが、やがて息が絶え、色がみるみる朱色に輝いてきます。

  わが残虐な性格を反省するのは束の間、すでに喉(のど)はハアハアと涎(よだれ)を抑えるのが難しくなってきております。約10分。見事に「食べてクリー」と食欲色に染まったクリガニ君が見詰めてきます。では頂きますぞ。

  作法に則り足肉をハサミで切り、神に感謝しながら口に運びますと、頭中は当然朱色に輝き始め、もっと輝きたいと命令してくるもんですから、次々と作法無視で片っ端から平らげていきます。

  最後に残しておいたミソをスプーンですくい上げます。濃厚なクリガニの味に慣れた舌は多少のことでは驚きませんが、このミソ、申し訳ないが岩泉の味噌(みそ)も有名な陸高の味噌も歯が立ちません。うっとりし、つぎに涙が出てきます。うれし泣きです。もうこの味を知ってしまったら、毛ガニなんて(本音・安いもので)。
(岩手県中核観光コーディネーター)

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