盛岡タイムス Web News 2011年 2月 28日 (月)

       

■ 〈幸遊記〉9 照井顕 明田川荘之のカリフア

 僕の店「ジョニー」が「音楽喫茶」から「ジャズ喫茶」へと1度目の変身を計った1976年8月23日。類い希(ま)れなる日本のジャズを生み出す男に出会った。その人の名は「あけたがわ・しょうじ」。

  「センチメンタルな、レッグのリズムに乗って、野蛮なスキャットが舞う。強靭(じん)な指が、今一挙に振り落とされた。荘厳なるピアノは、真っ黒い鳥肌を立て、地軸を揺るがすほどに身震いをした。一人三役、奇妙なるセッションは、不思議なまでの興奮を撒き散らし、人々の息を喘(あえ)がせ、行進してゆく。そして、何の前触れもなく、突然の絶頂感。けだるさの中で、気がつくと、いつの間にか、ホールの中に降り出した雨は、紛れもなく、天才と称する男の、エネルギッシュな汗のシャワーだった。」

  これはその時の私的な詩的な感想文だが、以来彼は35年間、毎年ジョニーにやってきて演奏すること50回は優に超える、最多出演プロジャズマン。ピアニスト・オカリナ奏者・作編曲家・オーケストラリーダー・エッセイスト・評論家・ジャズライブハウス「アケタの店」とオカリナ製作所の「レル民族楽器研究所」とレコード会社「アケタズディスク」社長兼プロデユーサーと、いくつもの顔を持つ。

  彼との出会いは、74年に店を開き、彼自身が立ち上げたレーベルの第1作「エロチカルピアノソロ&グロテスクピアノトリオ」という彼のデビュー盤の「カリフア」というアフリカのような曲。そのレコードたるや、シロジャケットと称された何も印刷されていないサンプル用ジャケットに手書きしたジャケットコピーをベタッと貼り付けただけの、まさに手作り。

  「このレコードは佳作。僕は天才。ちょっと気軽に聞くレコードじゃない。人間修練の聖者みたいなレコード。理解に苦しめば未だ人間未熟だと思いなさい」というライナーコピーに、何ともいえない味わい深さを感じた僕も、書いた彼も当時はまだ20代。彼の店に出演するミュージシャン達のレコードやCD発売もすでに百数十タイトルに及び、今や押しも押されぬ業界1、2の名門レーベルとなった。
(開運橋のジョニー店主)

本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします