盛岡タイムス Web News 2011年 7月 9日 (土)

       

■ 〈昆虫パワーをあなたにも〉5 鈴木幸一 桑は不老長寿の妙薬です(その2)

 養蚕に縁もゆかりもないオランダから、2008年に「桑は天然の強壮薬」という総説が発表されました。日本も含めた東アジアの桑に関する研究論文を集めたもので、岩手大学の新しい抗がん性物質も引用されていました。

  同じ年に、ブルガリアで第1回バルカン半島ワークショップが開催され、その中味は繊維生産を目的としないカイコと桑の活用に関する研究報告で、桑の葉、実、根が有望な機能性食品という内容です。

  農業改革の進む韓国は、カイコ、桑の機能性食品に関する研究開発にも先駆けており、カイコ幼虫粉末と桑葉は糖尿病の予防、シルク粉末はアルツハイマー病の予防、カイコの雄成虫粉末はED(勃起障害)患者への機能性食品として国の後押しもあり日常生活に取り入れられています。

  このような世界の流れにも関わらず、わが国の養蚕農家は減少するのみで、岩手県でも30戸を切るような状況です。しかし、桑食文化を岩手から発信する提案と研究成果が相まって、北上市の更木地区でスタートした更木ふるさと興社を核としながら、桑食品が同心円状に広がっていることは、研究者冥利(みょうり)であり逆に元気を得ています。

  更木女性の会が中心となって作った桑料理レシピは、桑パウダー入りのり巻き、桑茶がんづき、桑パウンドケーキなどに加えて、桑茶出がらしを利用した極め付きの佃煮に及んでいます。桑はほとんどの食品の素材となるので、岩手の日常の生活の中で生かされつつ、全国に発信できれば頼もしい限りです。

  わが国の医療費は2009年度で35兆3000億円を超えています。これは国家予算の3分の1以上に相当します。高齢化社会の到来とともにさらに増加傾向です。

  もし、桑入り食品が普及し私たちにとって当たり前のメニューとなれば、せせら笑われても、10兆円の医療費が削減されるという胸算用を立てました。この10兆円を次世代の子どもの教育と震災復興に回せればと夢見ていますが、これまでの科学的な知見に、間もなく論文発表される岩手大学の免疫向上機能と近い将来明らかにされる抗老化物質が加わることで、不老長寿の妙薬が期待できます。

  平泉藤原文化が目指したものは、現世における浄土の世界です。あの世で浄土を迎えるよりも、この世の桑食文化で生活の質を高めながら人生を全うすることも浄土思想に通じるのではないでしょうか。
 (岩手大学農学部応用昆虫学研究室教授)

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