盛岡タイムス Web News 2011年 7月 21日 (木)

       

■ 〈肴町の天才俳人〜春又春の日記〉35 古水一雄 第二十九冊「春草録並夏草録」

 「春草録並夏草録」は、4月27日から6月20日の日記である。
  さて、春又春の父の容態であるが、日記冒頭の4月27日には次のように記されている。
     
  「通巻第29冊 春草録並夏草録」  
 
「通巻第29冊 春草録並夏草録」
 
 
    午前、荐(シキ)リニ囈語、午後、
    一杯ノ葡酒ニムセビテ啖切レズ、竟
    ニ暮ニ至ル、夜漸ク止ム、又一杯ノ
    そまとうぜ又ムゼブ、啖不切、咳不
    止、轉々欲出不出吾心断絶、此日、
    午后、鈴木、季村国手(意:医師)、
    夜、佐藤国手十時季村再来、酒ヲ喫
    シ去ル、薬石却テ苦痛ヲ増ノミ、見
    舞人続々、應(応)接甚ダ懶(モノ
    ウ)し、暮レテ雲軒、郡山ノ小姉来
    ル、久保寅主人、鈴江_三、おこせ
    様、郡山小姉、雲軒看病達暁一睡、
    夜已白、雨不止、父啖漸止、夜来呼
    ベド應ヘズナリヌ、(略)
    夜漸白、_三様去、雲軒去、久保寅
    去、櫓古人起、蕪鑪山起、櫓子省起、
    雀鳴、春陽瞳々
   
  病床の父はしきりにうわごとを口にし、気付けの葡萄酒も薬液も受け付けない。啖がのどに絡み咳もやまない。薬もかえって父に苦痛を与えてしまっているようだ。近親の者たちに明け方まで看病を手伝ってもらって仮眠をとったが、夜が白む頃ようやく啖が切れた模様である。
  けれども、昨夜から父に呼びかけても何の反応もなくなってしまっている。夜通しの看護人が明け方に帰っていくと、代わりに弟たちが起きてきた。スズメが鳴き交わし春の日差しがまぶしく輝いている。
 
  実は、父が病に伏すようになったのは、3月16日からであったという。4月16日の日記には次のような記述がみえる。
 
    父夜来時々醒めて囈語す、吾が心断
    絶す、臥してより当に一ヶ月、当日
    を思ひば吾が心断絶す、
 
  ただし、3月16日前後の日記には父に関する記事はなく、その時点ではこれほど病状が悪化するとはついぞ思わなかったのであろう。
 
  そして、4月25日にはさらに病状は悪化する。
 
    朝、父寒ヲ訴えへて、止マズ、全身
    顫動(センドウ)、母子戦〃競〃、
    湯婆(タンポ、意:湯たんぽ)ヨ温
    石(オンジャク、意:焼いた石を布
    で包んだもの、懐炉)ヨト騒グ、午
    漸ク止ム、季村医ヲ迎フ、来車、事
    茲ニ至ル、竟ニ挽回スベカラズ噫ト、
    嗚呼風不止乎、風不止乎、
  
  さらに、4月28日に至っては、
 
    佐藤、季村国手来診、今夜持ヤ否ヤ、
    余命日ヲ以テ数フルカ、時ヲ以て数
    フルカ
     尚屬(属)数日望(意:数日続く
     ことを望む)
     医曰、時耳、数時耳
     夜飯、芋子汁、飯、一椀而止、
     佐藤国手来診曰、余(命)数時耳、
     対談、容乎、客不到之、
     来客続来、紛々世上語、擾々市井
     談、菓子貪食、茶又茶、客曰、春
     郊已見爛漫花
     昨一夜之雨、昨一夜之涙、麗成満
     郊之花、
     看病、鈴桂、久寅、道勇、日野善等
     鳥鳴、両三声、窓白、教一括、父
     逝矣、于時、四月廿九日、午前四
     時三十五分
 
  あと数日は生き存えてほしいという春又春の願いは、佐藤国手によって数時間のみと打ち砕かれてしまう。しかし、父の死期が近いことを知らない見舞客たちは、茶菓を頂きながらにぎにぎしく桜の話など世間話に夢中なのだ。
  やがて、日付が変わって鳥が鳴き辺りが白み始めたころに、春又春の願いも空しく父は息を引き取った。4月29日午前3時35分のことである。享年50歳であった。
     
  父・四代目庄兵衛(喜助)  
 
父・四代目庄兵衛(喜助)
 
 
   (五月二日)
    佛前紅梅一花落、心緒逢零落、落花
    不可踏、吊(弔)客接踵来、東風午
    来雨如瀧、蒼皇晝飯、葬式一時、出
    棺、雨全止、天空雲一変、春泥草鞋
    重歩〃春暖、棺已入山門、導師経一
    番入堂、読経、他山僧又数名、置々
    不辯人語満堂会葬者、視線皆余ニ集
    ル、経止、慇懃焼香、棺前不敢仰視、
    焼香皆畢、帰宅、四時退(逮)夜客
    来、僧来、読経、黙々強ヒテ睡應ヲ
    拂ヒツゝ之レヲ聴ク、父ヲ思フノ情
    却テ閑居独想ノ時ニ限ル読経只徒ラ
    ニ連日ノ睡ヲ催スノ駆走暴雨至僧去
    而灯、灯下喝苦茗(意:苦い茶を飲
    み干す)紛々会葬客拂尽満衣塵、日
    記無閑、夜思家事三杯葡萄酒、不醉
    就寝、電一斜、雷震屋、電雷又電蕾、
    夢時々破、
 
  父の葬儀は2日後に執り行われた。漢文体で簡潔につづられている文体に春又春の悲しみが一層深く伝わってくる。

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