盛岡タイムス Web News 2011年 7月 22日 (金)

       

■ 〈胡堂の青春育んだ書簡群〜学友たちの手紙〉34 八重嶋勲 ロシ、ソウウンの消息キゝタシ

 ■原抱琴

  58はがき 明治三十四年八月二十日付
 
宛 陸中国(稗貫郡)紫波郡大巻 野村長一様
発 函館港凱旋丸にて 原 生(抱琴)
 
   唖禪君と會談いたし候、小生来る廿九日当港へ帰り御地へ向ふべく候、
   ロシ、ソウウン、の消息キヽタシ、
拝啓新潟を発して航は保養の為め漂流いたし居り候事御存知の事と存候、去る十四日当港着、今日出帆樺太カルサコーフヘ向ひ申候、五山、箕人、炎天、三柊等の諸兄へよろしく、御手紙は当分函館郵便局留置として願上候、
 
【解説】 明治三十四年八月十日付、阿部秀三の書簡に、「抱琴君には浦(ウラ)塩塞徳(ジオストック)に伯父様と遊に出かけられ函館等を経て九月上旬當地に立寄らるゝとの事に候」とあった。原抱琴は、伯父原敬に連れられ、航海中である。葉書に見える、五山、箕人、炎天、三柊、露子、挿雲は皆、原抱琴が俳句の指導をしてきている仲間である。
 
  ■阿部秀三
 
宛 紫波郡彦部村大巻 野村長一様
発 阿部秀三
 
拝啓其後は如何御起居被成候哉、
本月十九日浦港発信にて原抱琴君より葉書賜里面白く拝見仕候、同君には十日に浦港出帆新潟へ帰り、更にコルサコフへ向け出発、凾舘帰航は二十九日頃之由、それより上陸青森を経て當地に着せられ帰京の豫定なる由、手紙は凾舘区東濱町山縣支店留置、凱旋丸舩室として発送し呉れ候様申越され候、皆様へ宜敷様にと有之候、
先晩之同志會は豫想外好結果に了里喜ばしき次第に奉存候、貴兄之御骨折之程は深謝仕候、同夜席上に於ける金蘭簿記載事項には聊か感候、之一寸申上候、
波岡君と會見候は今回初めて普通談話は至って面白く覚え居候處二高之文科管見のこ(と)に於て哲学科を非難候は井蛙流を免れ難かるべく、稍や哀れに可笑しく感じ申候、
米内君之今回之スマシ方全体気に合ひ不申、當年之米内はゼロに相成居、軍人は益々気に合はずなり申候、
小笠原若菜とか云ふデモ風流家に至っては頭ツから気に合はず虫血が走るを覚え候、
小野小町歌集に於ける天理教農夫百姓なとゞスマシた處中々に存候、社會之不生産的人物是より甚だしきは無かるべく存候、
當夜五山君之「信仰なし理想之人物、日蓮。愛讀之書孟子聖書」と書かれたるは日頃之言方と背反し、且つ誰れにもよい様に當らす障らず的之計略と瞥見候は、ひか目か小生も一たん親友として相信じ居候上は聊か言なからさるを得ず思ひ居候、且つ五山君之為めにも甚だ賀すべからざる事にして自省一番願ひ度候、
皆迷信家同僚某妙宗二月分を携ひ来り、是非讀めといふ事務終了後取敢えず一讀仕候處成程相勧め申候も道理此迷信家は名詮自釋一切迷信的にして新仏教などは頭ツから馬鹿にして(その僻一切学的な御留守)小生を弄ばんと致居候故、同号には田中智学の新仏教を三文代もなく罵倒致し候もの掲載有之に依り申候、一見実に小生之頭より割出し(勿論ふ才朱学には相違なけれと)可笑しく非論理言論矛盾お後錯綜何んとも申上られず候、それに拘はらず大々的活字にて威張ったものに候、後日論証之為めにもと存じ写し取置候、御出で之際御目に懸け申候、あまりに田中を買被里今更突飛なるに耻入り居候、最初之観察は尤も大切なる事深く肝銘居候、
新仏教に付いても言分あり後日に譲る
(宗教界之混沌たるには今回一層吃驚致候)
前に立返り申候、同人間之悪口を叩き甚だ済まさる儀に候得共特に貴兄へ丈けに候、若し御意見も有之候得者謹んで拝聴仕度候、
余之歯牙元より談ずるに足らず候得共銷暑之眠け覚しにと猶一寸御辛棒御一讀被下度候、先夜之経験により和歌其他国文などへ専門?的に指をそめやれ小野小町之歌やれ誰の歌など騒き居候連中は概して因循に流れ後しろにヒッコンで女流然とかまへ何んとも面白からず見受け候、廿世紀之舞台はあまりこんな風なものは望ましからざる事に有之絶対的とは言はず、
又思ひ付き次第申上べく今回は此れにて擱筆仕候、折々御手紙被下候はゞ幸甚、
  二十一日                        阿部秀三
   野村菫舟様

【解説】「本月十九日浦港発信にて原抱琴君より葉書賜里面白く拝見仕候、同君には十日に浦港出帆新潟へ帰り、更にコルサコフへ向け出発、凾舘帰航は二十九日頃之由、それより上陸青森を経て當地に着せられ帰京の豫定なる由、手紙は凾舘区東濱町山縣支店留置、凱旋丸舩室として発送し呉れ候様申越され候」との、原抱琴の伝言を伝えている。
  「先晩之同志會は豫想外好結果に了里喜ばしき次第に奉存候、貴兄之御骨折之程は深謝仕候」と言いながら、集った同志について、それぞれについて相当の不満をぶちまけている。「米内君之今回之スマシ方全体気に合ひ不申、當年之米内はゼロに相成居、軍人は益々気に合はずなり申候」などと厳しい目を持っている。
  また、この当時の若者は、宗教論、哲学論を盛んに論じているのは、時代の風潮であろうか。

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