盛岡タイムス Web News 2011年 7月 28日 (木)

       

■ 〈ここで踏ん張る〉自宅を遊び場に開放 大槌町の澤口勝美さん

     
   
  折り紙先生の澤口勝美さん。子どもたちの作品や手紙が飾られた自宅。子どもたちの笑顔が何よりの励みだ
 
  「折り紙先生」と慕われる大槌町桜木町の澤口勝美さん(62)。津波で浸水した自宅を片付け、子どもたちの遊び場に開放している。張り替えたばかりの障子紙には、紙細工の「ろくろく首」や「大天狗」。「妖怪たちが遊んでいる家だよ」と茶目っ気たっぷりのメッセージも。廊下の壁には、子どもたちがかいた色とりどりの手紙やカードが飾ってある。

  震災前は、釜石市の放課後子ども教室の指導員として公民館で工作や手芸を教えていた。初めは1組の姉妹だけ。それからどんどん仲間が増え、合わせて148人の子どもたちと関わることになった。

  サラリーマン時代から定年後は「新しい第二の人生を踏み出す」と心に決めていた。そのためには「準備が要る」と、生涯学習インストラクターやフラワーデコレーターの資格も取った。

     
  子どもたちの名前を刻んだ「消しゴムはんこ」。2階にあり、流されずにすんだ  
  子どもたちの名前を刻んだ「消しゴムはんこ」。2階にあり、流されずにすんだ  
  子どもたちのリクエストに応え、折り紙以外にも「消しゴムはんこ」「切り絵」「メッセージカード」と手作りのバリエーションを増やした。ネタは200種近くある。最近、女の子に人気の髪飾り「シュシュ」の作り方もマスター。「子どもと一緒にいると、どんどん新しい発想をもらえる。子どものアイデアを生かして、また新しいものを作ると子どもは鼻高々。別の子も『今度はわたしが』と頑張る」と目を細める。

  震災後の子どもたちの様子が心配だ。ひょっこり現れた小学生に「元気?」と尋ねると、言葉があふれ出るように話し出した。「先生は何で怒らないの」と逆に質問されることもある。

  「子どもたちは相当、ストレスをためている。遊び場がない。親たちが疲れているのも十分、感じている。子どもはうるさくて当たり前。むやみに怒る大人を見ると腹が立つ。今一番、大事にしなければならないのは子どもだ」と力を込める。仮設住宅の談話室や公民館で、子どもたちとの触れ合いの場を再開できないか交渉している。

     
  障子には「ろくろく首」や「かっぱ」  
 
障子には「ろくろく首」や「かっぱ」
 
  震災直後の自宅の片付けでは、全国のボランティアに助けられた。一緒に作業したことが縁で、野菜の種や食料を送ってくれた沖縄、北海道の青年もいる。「子どもたちと消しゴムはんこを作る材料が足りない」と協力を依頼した文具メーカーからは、すぐに在庫が届いた。盛岡市のボランティア団体SAVE・IWATEからも物資を提供してもらっている。

  「若いころ、一人で全国を旅したときの感覚に似ている。見ず知らずの人に出会い、助けられる。震災は確かにつらい。下を向く人が多いが、むしろ、楽しもうという気にさえなる」と明るい。自宅のある住宅団地の環境を守るため、仲間と河川への不法投棄の自主調査も始めた。「一人ひとりができることを探して、まずは動き出すこと」。

  6月は澤口さんの誕生日。「折り紙先生」の一番最初の生徒、奥結子さん(釜石小2年)と姉の塔子さん(同4年)さんから手紙が届いた。

  「すこしおくれたけど、おたん生日おめでとうございます。つなみがきたから、今はあえないけどこんどあおうね。こうりゅうが早くできるといいね。そしたらいっぱいあそぼうね。いっぱいこうさくを作ろうね-」。

  「こんな手紙をもらったら絶対、やめられません」。復興のまちの将来を担う子どもたちと全力で向き合う覚悟だ。
(馬場恵)


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