盛岡タイムス Web News 2011年 7月 31日 (日)

       

■ 〈詩人のポスト〉吉野重雄 「師の国 再訪」

        吉野 重雄(滝沢村)

  師の国 再訪

 
紀の川が流れて行く
私は一人
岸辺の草むらに座り
長いこと水面を眺めていた
 
和歌山中学から
大阪高等学校文科乙類に進み
退学の厳しい処分を受けた人
杜の都仙台で学びなおし
岩手大学の教授となった
その人を
私は生涯の師と仰いできた
 
岩手山を間近に仰ぐ北の盛岡を
墳墓の地と定めた人は
炯炯たる眼差しで学生に説き
南の国へ帰ることはなかった
思えば師にとって
紀の国はあまりにも遠かった
 
今日の昼近く
花巻空港に車を乗り捨て
伊丹まで空路を100分
難波で
南海電鉄の特急サザンに乗り継げば
和歌山市駅へはたったの57分
また来たかと言いたげに
紀の川が迎えてくれた
 
暮れなずむ空に
和歌山城の天守閣が遠く浮かび
私は
今夜の宿もまだ決めていない
遥かな日
卒業論文の提出が遅れ
師に厳しく叱られた男のことなど
この街の人は
だれも知らない

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