盛岡タイムス Web News 2011年 8月 10日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉241 伊藤幸子 「あちらの世界から」

人魂の出たあとへ来る漢方医 村田周魚「川柳研究資料ノート・現代篇」より
 
  夏だから怪談、というわけではないがむし暑さと度重なる地震に眠りが浅くなっている。そんな中で佐藤愛子さんの「冥途のお客」を読んだ。氏の超常体験は有名だが、そのどれも、特別霊体質の者でなくてもあり得る感覚だと実感する。実際にふしぎなものが見えたり、音が聞こえたり物の移動とかがあるわけではないけれど、私などたいてい自分のかんちがいに混乱することが多い。

  きょうはある集まりに出かけた。車で走行中、急ブレーキではないのに助手席から資料を入れたバッグがころがり落ちた。駐車場で中身を点検し、会場へ。ところが講義が始まったのに筆入れがない。おかしいな、たしかに助手席の床から拾い、しまったはずなのに、しかたなく1本の小鉛筆でがまんして書いていた。カラーボールペンに、ライトブルーの万年筆、消しゴム、研いだ鉛筆他、愛用品がないと不便だ。

  愛子さんは旅先でダイヤのネックレスを入れた小銭入れを失ったと書かれている。それはずっと続いている霊のしわざで、何カ月かたってネックレスは元の小銭入れに戻っていた由。さもありなんと納得させる筆力に感じ入る。

  炎天下、講義終了するや車にもどった。すると運転席のすきまに、筆入れのストラップの子犬が首を出しているではないか。「なんだ、いたの、なんでワンワン吠えないのよ!」と笑ってしまった。

  もと古書店主の直木賞作家、出久根達郎さんの書かれるものも、ザワッとさせられる話が多い。何よりそのふんいきがいい。神田須田町の汁粉屋さんでのこと。男の二人連れが黙って汁粉を食べていた。「Sさんが、口の中が甘いからさっぱりさせましょう、と近くの蕎麦屋に誘ってくれた。するとそこでも、先ほどの二人連れと出くわした…」まではいいが、カミさんに言うと、エッ、そんな人達はいなかったと言い張った-。思わず汗の引くお話。

  愛子さんの周りには、いつも遠藤周作さんや川上宗勲、中山あい子さん方が訪れて、にぎやかに歓談しておられるという。そして「死後の世界はあった。大体君の言った通りだ」と狐狸庵(遠藤)先生が言われたとか。そこからは人間界がよく見えているらしい。なんでもない日のくり返し、無事安寧の中できょうの失敗談のような、ウフッと笑えるひとこまは自戒をこめて、あちらの世からの発信と思いたい。お盆、もうすぐあちらからお客さまがやってくる。 (八幡平市、歌人)


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