盛岡タイムス Web News 2011年 8月 21日 (日)

       

■ 〈詩人のポスト〉金野清人 引き裂かれた故郷

  引き裂かれた故郷

             金野 清人
 
モモタロウよ
なにもかもすっかり変わってしまったが
瓦礫の隙間から
おまえの生まれた故郷を
しっかりと見ておくがいい
 
そこが
朝早く
じいちゃんとおまえがホダデを揚げに来た
里海の六ケ浦だよ
 
長長と延びた岸壁で
散らばった小魚をウミネゴと取り合った日を
威勢のいいハマドと戯れた日を
覚えているだろう
近くでは浜の小母さんたちがせっせと
特産のワカメを湯通ししていたっけ
 
見えるだろ
その先のゴツゴツした岩場
叔父さんがね
ネウだのメバジだの入れ食いなもんで
こっそり穴場にしてたとこなんだよ
 
その向こうに見えるベージュ色の砂浜
青く澄んだ海とマッチングして
まさに一幅の絵のようだね
あそこが海水浴客で賑わった大野海岸だよ
そうそう
おまえがヤンチャだった頃
ヤドカリに驚いて
逃げ惑った砂浜だね
 
忌まわしいあの日
海嘯(かいしょう)は三陸海岸を乗っ取ると嘯(うそぶ)いて
防波堤を容赦なく乗り越え
乳の如き故郷を
ズタズタに引き裂いてしまったんだ
 
ほら
浜辺には
じいちゃんと網揚げに行った志和丸が
悲嘆の錘をずっしりと下ろしたまま
横たわっているだろう
 
耳を澄ましてごらん
たくさんの死をのんだ広田湾の彼方から
浜風に乗って
おまえをメンコがったハマドの声が
かそけく聞こえてくるだろう
 
「モモタロウ
  また、こうばや…」
 
    モモタロウは妻の実家の愛犬
    ハマド‖漁師
    ネウ‖アイナメ
    メバジ‖メバル
    メンコがった‖かわいがった
    こうばや‖来るんだよ
               ケセン語

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