盛岡タイムス Web News 2011年 8月 31日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉244 伊藤幸子 「うなぎ茶漬け」

 粉山椒つーんと香るあつあつの鰻茶漬は小名浜の味
                        高橋安子
  
  連日の暑さで食欲もなくなるころおい、粉さんしょうをつーんと香らせて、うなぎ茶漬をかきこむ食卓。いいなあ、食べたいなあとやおら空腹感をかきたてられる。どんなに暑い時でも、これさえあればごはんが食べられるという秘伝の一品があると心強い。海に遠い私の村では、冷蔵庫もなかったころは本当に畑の蛋白質にのみ養われる日々だった。食を語ればアッというまに60年ぐらいの食卓ビデオが再生できる。アレルギーだの賞味期限などの発想はなく、すべてもったいない精神に満ちていた。

  大正14年郡山生まれの高橋さんは結婚後も福島県下で、中学校教諭、昭和57年から4年間カナダで暮らされ帰国。平成18年歌集「茄子の花」出版、趣のある表紙絵も自筆でナスの花を描写されてすてきな装幀になっている。戦争をはさんで、職業と家庭を守られての日々、「真剣に手を挙げてゐる子ら見つつ一人を指すに瞬時ためらふ」を巻頭に置く。

  「山の子の教へくれたる片栗の葉のお浸しは素朴で旨し」「君がため虎杖(いたどり)の葉の刻みしを煙草に巻きし戦後も遠し」イタドリの葉は刻んだことはないが、ヨモギの葉を揉んでいた古老の姿は記憶にある。誰も禁煙を言わなかった。

  定年後、転機が訪れる。「移住すとバンクーバーに来て七日どこへ行くにも夫と連れ立つ」作者には在職中、一ヶ月間の文部省派遣海外教育事情視察で欧米を廻られた経験があり、カナダでの暮らしも抵抗はなかったようだ。毎月の歌誌に載るカナダ短歌は氏の洞察力のゆき届いた記録詠風で楽しかった。「カナダにて我の作れる押し花絵日系人の祭に人呼ぶ」「思ふさま白人教師と話したき願ひに真夜も辞書を引きゆく」熱い向学心のこもる歌。高橋さんと旅をすると、その身ごしらえのスマートさ、荷は最少限に、そして必要な物は完ぺきにいつでもとりだせるようにできるしまつのよさに感心させられる。

  2000年にはご主人を送られ、86歳となられた今、親しい方々にもずい分先立たれた。「朝のヨガ逆立ちのまま柊を見れば逆さに花の散りゆく」「近未来北半球に果てんわれ今宵は南十字星(サザンクロス)を仰ぐ」あるいは今ごろも、どこか地球の裏側にでも行っておられるか。「柚子皮の薄切りせしを蜜に漬け白磁の皿に盛るは清しも」このユズ菓子の作り方を教えてもらう約束だった。先日の強震見舞かたがた、久々に電話をしてみよう。
(八幡平市、歌人)

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