盛岡タイムス Web News 2011年 10月 8日 (土)

       

■ 〈昆虫パワーをあなたにも〉11 鈴木幸一 ヤママユからがん細胞を眠らせる物質の発見2

 ヤママリン(天蚕から発見した眠り物質)はまだ2流の研究です。

  第1の理由は、たとえ生物界から初めての物質であろうと、また人類がこれまで合成したことのない新物質であろうと、昆虫の世界のみにとどまり、ヒトに直接貢献できるようなインパクトに欠けているからです。

  第2の理由は、一流の国際誌にまだ登場していないからです。後者の方は、研究力不足を物語っていますので、努力次第ではクリアできる可能性があります。前者の方は、偶然とかアイデアとかに大きく左右されることがあります。

  ヤママリンが昆虫(天蚕)を眠らせる本体であるとすれば、がん細胞でも眠らせることができるのではないかと、突然アイデアが生まれました。岩手大学の長所のひとつとして、400名ほどの先生方の専門分野を大よそ把握できますので気軽に相談できることです。すなわち、一人の専門ともう一人の専門の相乗効果がスムースに生まれる土壌があります。身近にネズミの肝臓がんの細胞を培養し研究している先生がいました。ヤママリンとネズミの肝臓がん細胞によるはじめての出会いが実現しました。

  予想は的中したのです。肝臓がんの細胞を48時間も培養するとシャーレ一杯までに激しく増殖続けますので、勢いのあるがん細胞に侵されると容易に転移する力を素人でも理解することができます。

  しかし、ヤママリンをがん細胞に加えた時、彼らの増殖の勢いは一変し細胞の形まで変わってきました。顕微鏡で詳しく観察すると、がん細胞は見るからに鋭いひし形をして増殖する様子から、丸みをおびて増殖の勢いのない細胞へと変化していました。さらに驚いたことに、培養細胞からヤママリンを除くと、増殖の勢いを取り戻したのです。すなわち、ヤママリンによりがん細胞は増殖→眠り→増殖→眠りを繰り返すことから、がん細胞を死滅させることはなく、穏やかに眠らせているのではないかと考えています。

  長い歳月をかけて昆虫の眠るメカニズムを研究した結果、ヤママリンを発見できました。ところが喜びは束の間で、このヤママリンを新たな糸口として、害虫を殺すのではなく眠らせることができるのか、あるいはがん細胞を殺すことなくその勢いを止めながら静かに眠らせないかの研究が現在真っ直中です。はたしてヤママリンは一流になれるのでしょうか。

(岩手大学地域連携推進センター長)

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