盛岡タイムス Web News 2011年 10月 13日 (木)

       

■ 〈奥尻島視察団が行く〉5 「仲間の絆大切に頑張る」

     
  人工地盤「望海橋」から見る青苗漁港  
 
人工地盤「望海橋」から見る青苗漁港
 
  奥尻島の津波被害では、全国から集まった190億円もの義援金や国などの復興事業が限定された被災地に集中投資できた。だが、東日本大震災は事情が違う。被災地は広大で、その被害額も20数兆円に上るとみられる。奥尻のような潤沢な復興基金の使い方は難しく、高台移転など復興事業にかかわる国の支援策が、どこまで担保されるかも不透明だ。

  「今回は金は来ないと思ったほうがいいな」。長洞元気村の視察団も厳しい現実にため息をつく。しかし、あきらめたわけではない。視察を終えたあとの宿やフェリーの船内ではたびたび熱い議論になった。

  例えば、漁業の共同作業施設。「あれなら、おらほでもできる」と一人がいえば、もう一人は「ライバル意識がある。一緒にやるのは難しい。うまくいかない」「いやいや、そんなことはない。具体的に提案してみなければ」…。「けんかにならないの?」と心配になるぐらいの突っ込んだやり取りも、互いの厚い信頼があってこそだ。

  専業漁業の金野義雄さん(54)は自宅に加え、ホタテ、アワビなどの養殖施設や漁船を流された。辛うじて来春収穫の養殖ワカメだけは共同で種を付けたが、ボイル作業をする加工施設の復旧めどはたたず、来年は生ワカメのみの出荷だ。利益も共同作業した全員で分けるため、大きな収入は期待できない。

  「厳しいよ。でも何もなくなったからこそ、新しいこともできる。好きなことができるんだ」。廃業せざるを得なかった漁業者の分も踏ん張り、養殖業の規模を拡大して再起を図るつもりだ。

  村上誠二さん(55)は長洞集落のつながりを生かした新たな地域活性化策を思い描く。「ワカメの芯抜きツアーなんてできないか」。手間がかかる上、作業者の高齢化が目立つ浜の仕事を逆にアピール し、都会からも人を呼んで地域おこしにつなげる夢を抱く。「集落の中に漁業部会、ハウス部会、稲作部会、観光部会みたいなものを作って、動いてみたらどうだろう」。まだ頭の中の構想だが、長洞の地域力があれば、何か仕掛けられると感じているようだ。
     
  6bかさ上げした土地に整備された青苗地区の中心市街地。背後には、さらに高台の住宅地に逃れる避難路が整備されている  
 
6bかさ上げした土地に整備された青苗地区の中心市街地。背後には、さらに高台の住宅地に逃れる避難路が整備されている
 

  村上森二さん(68)も「奥尻島の事例を東日本大震災にそのまま当てはめるわけにはいかない。けれど仲間に支えられ、いい旅ができた。勉強になった」と振り返る。

  奥尻島の視察から5日経った今月2日夜、長洞元気村では、仮設市街地研究会の専門家も交え、2回目の復興懇談会が開れた。奥尻島視察報告に続き、高台移転の方法を議論。この中で、集落の空いた土地に被災した各戸をはめ込むように住宅の再建を図る考えも示された。誠二さんらは山を削ってまとまった集団移転用地を整備するより「景観上も、一人ひとりの復興意欲を生かす上でも、長洞に合ったやり方だ」と考えている。

  こうした方法が、防災集団移転促進事業など国の補助対象事業として認められるか、そもそも集落の地権者たちが協力してくれるのか、解決しなければならない課題は多い。だが「住民のニーズに合うのであれば、改革的な考えであっても提案し進めていきたい」と意気込む。

  新村卓実奥尻町長は元気村のメンバーの背中を押すように、こんな話もした。「かつての奥尻は夜も鍵をかけずに安心して眠れた。それだけ隣同士の支え合いがしっかりした環境だった。コミュニティーを守りながら、まちを再建していくことは大切なことだ」。

  古里を守り本気で生き抜こうとする住民の力が、揺るぎない復興の原動力となる。その力を受け止め、生かす、行政や政治の真価も問われている。

  「俺は本来、話すのが得意じゃないんだ。でも元気村の村長になって少し変わったよ」と苦笑いしていた戸羽貢さん(60)。奥尻島から戻った翌日、その戸羽さんからファクスが届いた。

  「(前略)長い長い復興との戦いになると思いますが、今後必ず今回の視察の結果が出ると思います。一人一人真剣に取り組めば必ず成しとげられると思います。地区を一つにすることが私の責務と考えます。仲間を信じ、いろいろな人たちに支えられ前にすすみます。仲間の絆、大切に頑張ります」。

  自分自身に誓うような一言、一言に、胸が熱くなった。
(馬場恵、終わり)


本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします