盛岡タイムス Web News 2011年 10月 13日 (木)

       

■ 〈春又春の日記〉41 古水一雄 「羊尾録」通巻33冊 碧梧桐かたりたる春又春うまい

 「通巻三十三冊 羊尾録」では筆が用いられ、10月20日から12月31日までが記されている。家業に専念しながらも、俳句にいそしみ、短歌をたしなんでいる。さらには夜になると谷河尚忠(たにがわひさただ)の主宰する夜学塾で莊子や論語の講義に通う日々である。
 
  盛岡中学校の同級で、杜陵短歌会や杜陵吟社で文芸活動を共にした内田秋皎(本名=直)が、遊学先の東京外国語学校から冬期休暇で帰ってきている。そして、秋皎の話として歌友・月秋から次のような言葉が伝えられたのである。
 
   (十二月二十七日)
    午前、書籍の仕入帖整理、午后、当
    座帖整理、
    夜、月秋君岩手公論の応募句を携ひ
    来る。暫く店頭に語る。秋皎かへり
    たる由、碧梧桐かたりたるに春又春
    うまい云々。
 
  さらに12月29日には、秋皎が店頭に現れる。
 
    忙中、帰盛中の秋皎子来、碧梧桐旅
    をいやになつて信濃から引きかへし
    た。
    東京についたら丁度母が病氣だとい
    ふので国元に去つた云々、碧曰いわ
    く、盛岡の春又春と高等学校の澪築
    子とハ近来発見した天才じや云々
    虚子は一人にても多く俳趣味の志を
    作らんとし、碧梧桐ハ俳人中より英
    才の志を作らんとす云々、
    左千夫馬酔木をホトトギスに合併せ
    んとし甲之をして之を計らしむ、ホ
    トトギス歌の為に紙幅を割かんかと
    の一議あり、乙字、癖三醉等碧門の
    志これに反対し、碧子亦紙上子規趣
    味日に暮れ行くを虚子に質す云々、
    俳天下碧門より一機関誌出づべきの
    秋に会せり云々、余窺かに思う、碧
    梧桐未だ子規の短歌趣味を解せず、
    俳句は子規の一面にして全面にあら
    ず、他面短歌あるを忘れたり、否か、
 
  秋皎が語るには、春又春と(第二)高等学校の澪筑は天才だと碧梧桐が言っているということである。さらに虚子と碧梧桐との門人たちへ処し方、そして、伊藤左千夫の馬酔木をホトトギスへの合併という編集方針とそれを巡る対立など中央文壇の動向も伝えられている。

  子規生前の「ホトトギス」では、短歌も俳句も同等に扱われていたが、虚子が写生文を重んじるようになって、短歌は伊藤左千夫によって「馬酔木」として独立し、俳句は碧梧桐の「日本及び日本人」にその活動の場を移してきた。もし「馬酔木」が「ホトトギス」に合併されると、ますます俳句が「ホトトギス」に入り込む余地がなくなってしまうというのが、碧門の俳人たちの反対理由であったようだ。もしそういうことになれば、いっそ新たに俳句の雑誌を創刊したほうがいいというのが彼らの主張である。

  子規を信奉している春又春にとってみれば、碧梧桐が俳句だけにこだわっているのが気に入らないのである。子規は俳句と短歌が文学の両輪であると主張してきたではないか、碧梧桐はそのことをいまだ理解していない、短歌をないがしろにしているというのである。

  左千夫に対する不満から「馬酔木」やその後続誌「アカネ」「アララギ」への投稿をやめてしまってはいたが、日記のなかには俳句・短歌の比率は別として両方が書きつづられているのである。その意味では春又春こそ子規文学の真の後継者といえるのかもしれない。なお、“春又春、天才”は、翌年9月に仕入れのために上京した雲軒からも伝えられている。
     
  内田秋皎  
 
内田秋皎
 
 
   (九月八日 ※明治41年)
    雲軒ノ話ニ、碧梧桐ノ話ニ春又春ヲ
    初メ何処ノ誰レトモワカラナンダ、
    盛岡ニアノ人カカノ人カト考ヘタ末
    紅東ラシイト独リデキメテ居タ、後
    ニ秋皎ガ来テワカツタ云々、又曰ク
    春又春天才ダ云々、秋皎ガ嘗テ云、
    先生ガ春又春ヲ天才ジヤトイフテ居
    マス云々、シヤレニイフノダロウ思
    フテ居タラ、雲軒ガアガツテモ天才
    ジヤトホメラレタソーダ、コレジヤ
    春又春タルモノウヌボレル丈ケダ、
    眉ニツバシテ褌ヲシメナクチヤナラ
    ヌ、
 
  明治後期の俳句界の重鎮に“天才”と称されていることが2度も伝わり、秋皎からのときは戯れ言にいうのだろうとさして気にも留めなかった春又春も、雲軒からも同様の話が伝えられたからにはまんざらではなかったのであろう。「眉ニツバシテ褌ヲシメナクチヤナラヌ」と気を引き締め直したのであった。


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