盛岡タイムス Web News 2011年 10月 14日 (金)

       

■ 〈野村胡堂の青春育んだ書簡群〜学友たちの手紙〉46 文つづる予をあはれと覚したまえ

 ■猪川浩拝

  78 巻紙 明治35年5月6日付

宛 東京市本郷区臺町三六番地東北舘内
               野村長一様
発 盛岡市四ツ家町 猪川浩拝

   (封筒裏)〔六○五の元稿一枚なりと
    も必らず送らすべし取馳□送り玉へ
    五月六日夜 花の曙
    誰れにも見せぬ様願上候
 
小雨そぼつ小窓の元に文綴る予をあはれと覚し玉へ、卿等が文を得て蘇生したる彼の如き麗人なりと覚し玉へ、襁褓児の母の懐離れたる予なり、卿等が眞情微かき文を見るときいかで仇に思ふべきか、予が卿に文少し遅れたりとて何條予か「去る者日々に疎し」と斯くの如きものあらんや、そは情なき言ひ方なりと恨むべきものなりかし、
東都は知らず暫く郷土が花の音連れ聞かれよ、梅桜一時に綻び初めて爛漫、枝もたれて見ゆるひか目か夕そヽろ歩きに公園か辺りを独りさ迷はヾ川岸のみとり糸柳たれて春たけなはなり、まして靄々たる彼の霞の如き桜は雪洞の灯にあかりていかにうれはしきか、そこの小路こヽの大路をたどらむ、必ず野梅盛りなるに蓬(逢)着せん、乞ふ更に野外に杖を□ゑて八リンの渡しを船頭にたのめ、さらば藁垣の下白鶏のすくみて妻恋ひつヽくヽといふ聲をきかん、その辺菜畑黄に背戸の水際にそひ立つ柳の紅きと白きとを見ん、でんでん舞ひの胡蝶青麦畠をつい立つ揚雲雀の長閑なる一日を送らん、春は都なるべきか果た田居なるべきかこの手便りを得るもの誰れか恍々として田居のいかに野趣に冨めるかに想ひ及ほざヽるものあらんや、李咲いて梨子莟めり、去年予等か計畫せし自炊はいかに感ぜらるヽか只ぐちの種となるべきのみ、
この時雄辨會第四回は、桜花の中小沼の楼上に於て開かれたり、こは尤も後藤君の送別会をかねたるもの(因にいふ後藤君は仙台に行く筈なり、君よりも暇あらば義理なり一本の手紙位ひはやり玉へ、恨む所あるらし)今その演題列挙せんに
  開會の辞        佐々木友三郎
  学風          金子常太郎
  保護器官と緊要器官   瀬川 深
  報酬          後藤清三
  諸君に一言す      村上四郎
  天職          猪川浩
  昔噺          坂本亀三郎
  天才          川井允
   こゝにて休む、茶菓、後藤君六時の汽車に遅れるから昔噺途中から返る、不肖諸君の批評をやって見た次第
  初めて見ゆるの辞    櫻羽場柊生
  無題          鈴木喜六
  忘却          岩館
  ごあいさつ       村井一郎
   〃          佐藤
   〃          佐々木友治
  (つづく)



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