盛岡タイムス Web News 2011年 10月 19日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉251 伊藤幸子 「百たびの雪」

 渋民を出でてかへらぬ一人ありひばの木に降りし百たびの雪
                        柏崎驍二

  10月8日、北上市にて「第26回詩歌文学館賞贈賞式」が行われた。短歌部門は、岩手県歌人クラブ会長の柏崎驍二さんが受賞され、岩手歌壇はもとより中央、県外からも大勢の文学愛好者がかけつけて大盛況だった。

  昨年9月刊行の第六歌集「百たびの雪」は同年詩歌文学館20周年記念展「啄木に献ずる詩歌」での一首が集名になったとのこと。「あとがき」に引かれている啄木の「ふるさとの寺の畔(ほとり)の/ひばの木の/いただきに来て啼きし閑古鳥!」この歌とはまさに一対の贈答歌となって感動をよぶ。啄木没後100年、そして作者の歌歴50年、文学館20周年と記念すべき節目の年の大いなる賞で祝賀ムードに包まれた。

  選考委員代表の沖ななもさんは「啄木は岩手を出て帰らなかったが、柏崎さんの作品はじんわりと醸し出される粘着性が魅力。地元を離れなかった頑固さが貫く確かなものがある」と評された。

  私も今、机上に氏の6冊の歌集を読んでいる。「しろがねに光れる魚よ妻が国紀州のはやき潮(うしお)を知るか」は第一歌集「読書少年」で「干魚カンピンタンの唄うたふ国はも恋ほし汝が生ひし国」に通う美しい相聞歌。昭和47年のO先生賞受賞作は今も動悸を覚える作品群である。ちなみに氏は三部門の短歌作品賞と評論、随筆の「コスモス五賞」すべてを獲得された。

  「昨日描きし薔薇一本の花も葉も今日すこし暗し一日老いて」「登山靴のデッサンをわれらしてゐたり部屋の小窓に夕日を溜めて」氏はまた絵画も玄人はだしでファンも多い。

  ことしは震災という思いもよらなかった「時」の断層にのみこまれた。はてしない喪失感からようやく立ち上がり、命の歌をつむぎだす。大震半年、短歌研究社の「第四十七回短歌研究賞」にも柏崎さんの作品が選ばれた。津波は最悪だったけれど、この度の詩歌文学館賞とのダブル受賞はこの上ない快挙である。

  受賞作「息」20首、受賞第一作「海境」50首が輝く。「くわんざうもぎしぎしも梅雨に茂りつつみちのくはいまみちのくの息」「裏側の見えざる丘の草斜面をのぼりゆくごと七十(ななそ)ちかづく」大船渡市三陸町生まれの氏には「ながされて家なき人も弔ひに来りて旧の住所を書けり」と悲痛な場面もさけられない。「海荒るる日と凪の日の感情をおのづからもち海境(うなさか)に住む」そこに生まれ合わせた者として、みちのくの息を長く後進に示して頂きたいと願っている。
(八幡平市、歌人)


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