盛岡タイムス Web News 2011年 10月 22日 (土)

       

■ 〈大震災私記〉32 田村剛一 窃盗団のうわさ

 

震災後何日かして、あらぬうわさが流れた。

  「空き巣狙いが出没している」「中国の窃盗団が侵入しているらしい」。あの家もやられた、この家もやられたと聞くと、だまっておれない。わが家に、金目になるものがあるわけでないが、心配なのが火事である。金目になるものがないのに腹を立て、火をつけられたら事だ。なにせ、わが家は玄関扉がなくなっているので、家に侵入するのは簡単だ。

  隣人にそれとなく聞くと「どうも家の中が荒されているようだ」という。隣家は、津波で流されてきた家や車、折れ曲がった電柱で、めちゃめちゃに壊され、修復不可能な状態である。それでも、家財道具は流出しないで、家の中に残っていた。その整理を毎日していた。それに、大事なものを探しているようでもあった。そんな人だから、他人が侵入すれば、すぐ分かるのだろう。

  わが家でも、その気配が全くなかったわけではない。そのうわさを聞いて家に入ると、2階に通ずる階段に、靴の足跡があったからだ。ただ、これが誰のものであるか断定は難しい。というのは、私も2階に上ったことはあるし、あるいは、その時の足跡であるかもしれない。物には全く手がつけられていなかった。

  侵入の有無は別として、空き巣や窃盗団のうわさを聞いて、家をそのままにしておくわけにはいかない。それで、息子と2人、懐中電灯を一つもって一時帰宅することにした。

  夜中、うとうとしていると、隣家でごそごそ、人の動く気配がした。もしかして、うわさの窃盗団?そう思ったら、背筋に冷たいものが走り、眠れなくなってしまった。わが家に侵入してきたらどうしよう。なにせ腕力には自信がない。だが、その音もすぐやみ、その後、音らしい音は全く聞こえなくなりほっとした。

  翌日、後片付けに来た隣人に何気なく家の様子を聞いた。「ゆうべは何もなかった」という。あの音は何だったのか。私の空耳か、それとも犬か猫だったのだろうか。

  それにしても、玄関扉がないということは物騒。さっそく仮設の玄関扉をつくることにした。向かいの全壊したわが事務所から本棚をひっぱり出し、玄関の所に立てた。それに、水でぬれた本を積む。そして、片側には、流れついた板戸を見つけて立てた。これで、仮設の玄関は完成。その後、空き巣のことも窃盗団の話もぱったりやんだ。私の一時帰宅もこの一日で済み、再びおいの家での避難生活が続くことになった。

(山田町)


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