盛岡タイムス Web News 2011年 11月 1日 (火)

       

■ 〈イタリアンチロルの昼下がり〉134 及川彩子 イタリア式もつ煮込み

     
   
     
  長年のイタリア暮らしで、唯一苦手な食べ物は「トリッパ」。イタリア式のモツの煮込みです。

  モツは、牛や豚などの胃・腸・心臓などの内臓部。内臓は傷みやすいものの、ビタミンや鉄分の栄養価が高く、しかも安値なので、昔から世界各地で食されています。

  トリッパは胃のことで、四つある牛の胃のなかでも、ハチの巣と呼ばれる網目状の第2胃袋を使い、トマト味で長時間煮込みます。本来はイタリア中部トスカーナ地方の郷土料理ですが、今はどの家庭でも食べています。

  生肉の半値以下で店に並ぶ真っ白な胃袋。弾力のあるゴム状の食感が苦手の私、夫は臭みを取るのに四苦八苦した経験もあり、何年もわが家の食卓に上ることはありませんでした。それが、先日、フィレンツェを訪れた際に食べたところ、そのおいしさに感激。まさに目から鱗だったのです。

  ルネッサンスの古都フィレンツェ。その中心にある中央市場をのぞくと、野菜や果物、魚、肉店と一緒にトリッパの専門店があり、ショーケースに、あらゆる牛の内臓や舌、耳などが、絵の具のパレットのように並んでいるのでした〔写真〕。

  そこで市場近くのレストランで人気のトリッパを注文。恐る恐る口にすると、トマトソースと一緒に溶け出す滑らかな食感に、これまでの偏見が吹き飛んだのです。

  こつを聞くと「トリッパと同量のセロリが臭み消しの決め手。それをオリーブ油や白ワイン、トマトで煮込みます。中世の飢饉の時から、あらゆるものの煮込みが試されてきたんですよ」と店のご主人。

  この地方特有の塩無しパンを浸す伝統的な食べ方も教えてくれました。12世紀の港町ピサとの戦争時、塩の輸送を止められた際に生まれたパンです。

  「食わず嫌い」解消となったトリッパは、歴史を反映するトスカーナの食文化そのものでした。

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