盛岡タイムス Web News 2011年 11月 20日 (日)

       

■  〈大震災私記〉53 田村剛一 支援物資2

 米や水は手に入ったが、それを炊く道具が一つもないことに気付いた。ガス台はダメ。電気も電気釜もない。とにかく、台所用品をそろえなければ、家に戻ることはできない。

  織笠地区の奥に住む知人が、そのことに気付いて、ガスコンロを持ってきてくれた。この人は、津波の被害は受けなかったが、悲しい目に遭っていた。娘の夫が、加工場に勤めていて津波に流されてしまったのだ。その娘は、私の教え子。津波直後に役場前で何度か会った。何度会っても、言葉のかけようがなくて困った。その人たちからのガスコンロだった。ありがたくもらうことにした。

  台所用品をそろえるためには、宮古まで足を運ばなければならない。そのためには車が必要。わが家には、車は2台あった。妻用と息子用。私は運転しない。

  ところが、この2台とも流された。1台は、家近くの駐車場で、もう1台は、宮古に乗って行った息子の車だが、磯鶏の薬王堂の駐車場に停めていて流された。物を買いに行きたくても、手段がない。

  車がなければ家に戻れないことに気付いた。思案した挙げ句、盛岡の知人に、どんなポンコツ車でもよいので車を探してくれるように頼んだ。沿岸で、車を手に入れることは不可能だったからだ。

  「難しそうだが探してみるよ」と言われた。同じような相談は、私以外の人からも受けていたらしく、いろいろ探してみたが見つからなかったようだ。

  「古いマニュアルの軽自動車ならあるよ。車検は来年の2月までだけど」。数日して、そんな連絡が入った。私の携帯はまだ通じなかったが、息子のものが使えるようになっていた。そこに連絡が入った。
  「構わないよ。走りさえすればいいのだから」。

  何も遠出に使うつもりはない。宮古にさえ行くことができればいい。それに、古い車なら安く手に入るだろう。

  この車が、知り合いの元教師2人によって、盛岡から運ばれてきたのが3月の末。この車を見て妻は喜んだ。妻はマニュアルしか運転できなかったからだ。これが、よそからの支援物資第2号と言ってもよいかもしれない。

  さっそく、ストーブや洗濯機、電気釜、やかんなどを買いに宮古へ車を走らせた。

  「古い人間には古い車が似合うね」。わが家の新しい(?)車を見て笑いながらそう言った人がいる。それを聞いて、私にぴったりの言葉だと思った。この車、寿命はそう長くはない。でも、大事に少しでも長く使いたいと思っている。
(山田町) 

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