盛岡タイムス Web News 2012年 1月 1日 (日)

       

■ 「ジジからの絵手紙」連載開始 菅森幸一 こうして戦後は始まったんだ

     
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  「ジジの戦後が始まった」 第1回
 
  1945年(昭和20年)8月15日の正午、天皇陛下が大切な放送をなさるという。天皇陛下の声など聞いたことがないから恐る恐るラジオの前に集まったが、雑音だらけで内容も難しくて何を言っているのか分からなかった。しかし、まわりの様子から察するとどうやら日本は戦争に負けてしまったらしい。

  こうして、ジジの戦後は、3月10日の盛岡駅前大空襲以来、ほとんど毎日着けていた汗だらけの「防空頭巾(ずきん)」と「ゲートル」をメソメソ泣きながら外すことから始まった。

  戦争に負けた悔しさよりも、戦争中ずっと心と体を締め付けていた得体の知れない不気味な緊張感から急に解き放たれ、なぜか涙がどっと込み上げてきた。

  暑苦しいだけの太陽がやたら部屋に差し込む国民学校3年生の夏休みだった。

                ◇             ◇

  2009年6月に盛岡タイムス社から発行された「ジジからの絵手紙」は、発売から間もなくして売り切れてしまうほどの反響があった。戦中の子どもたちの日常を絵と平易な文章で活写した作品集だった。著者は1936(昭和11)年生まれの菅森幸一さん(75)‖盛岡市緑が丘‖。「ジジが小学生の時は給食に何出たの?」などと言う孫たちに、絵手紙にして送り始めたのがきっかけだった。昨年の震災を経て、今度は戦後の子どもたちのたくましい生き方を伝えたいと思う。陸軍大将になることが夢だった「ギンギンの軍国少年」が、敗戦の日を境にまったく違う環境に放り込まれてどう生きたのか。続編「ジジからの絵手紙」を、きょうから隔週の日曜日にお届けする。

 美術と体育の免状を持ち、県内の小中学校を回った。盛岡市緑が丘に自宅を構えて24年。子ども部屋だった屋根裏部屋風の2階の一室が今では専用のアトリエだ。
  当時奥州市に住んでいた小学生の孫たちが遊びに来て昔の話を聞きたがった。「給食なんてあるわけねえべ、ジジのころは…、って言ってもピンとこないようなんだよ。まず用語が分からないからね」
  そこで、昔の子どもたちの遊びの様子や服装などを絵にしてはがきを出した。それが60通ほどまとまり本にした。評判になったのは子どもたちより同年代の人たちの間でだった。「とっても懐かしい」と注文が舞い込み、増刷して全部で1200部ほどになった。
  それから2年。「震災があって、つらい思いをした人たちは多い。終戦直後も、被災地とは比較にならないだろうが生活はたいへんだった。でも子どもたちは、その中から自分たちで遊び道具を作って遊び方を見つけて夢中になった。そんなたくましい姿も伝えたいと思うようになった」と話す。
  農家の子ども以外はヒエ飯や芋、カボチャ飯というのが当たり前の弁当。学校へ行く前に、真っ赤だった北上川で釣った魚は家族の貴重なたんぱく源になった。米兵が進駐すると、「ギブミ、ガム」「ギブミ、チョコレート」の言葉を真っ先に覚えた小学生たち。米兵が捨てた包み紙を拾って匂いをかいだ。
  親に怒られても夜遅くまでラジオにかじりついてFEN放送に耳を澄ませた。聞こえるのは英語だけ。その放送に混じる音楽が目当てだった。「当時は娯楽がなかった。とりわけ音楽に飢えていた。言葉は何回も聞いていれば覚えるから。そうやって聞こえてくるのはジャズだったね」
  敗戦時は小学3年生。軍艦や飛行機の名前と性能をそらんじて、少年航空兵や予科練があこがれだった。夢は陸軍大将になること。男子はみんな同じだった。「それしか目標はなかった」。それが、1日で一変する。「そりゃあ、子どもたちだってショックを受けたさ。今まで教えられてきたことはみんなウソで、目標はなくなってしまう。食べる物もない」
  だが、女性と子どもたちの変わり身も早かった。西洋文化の洗礼を競って浴びていった。「パーマはぜいたく」と指導していたもんぺ姿の「おんな先生」は、スカートに色柄のブラウスをまとい、パーマをかけて学校に出てくるようになった。子どもたちも母親に連れられて映画を見に出かけた。
  「子どもは遊ぶ名人。常に遊ばなきゃいけないと思っている。道具が必要なら作って遊ぶ。廃虚からまず子どもが立ち直っていく。いつまでも変われずに尾を引きずっていたのは意外と、それまで元気だった男たちだったね」
  腹は空かせていたが、子どもたちには敗戦の街を遊びの楽園に変える無尽蔵のバイタリティーがあった。

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