盛岡タイムス Web News 2012年 1月 6日 (金)

       

■ 〈胡堂の青春育んだ書簡群〜学友たちの手紙〉58 八重嶋勲 曰く「人間は小宇宙なり」

 ■猪川浩

84 半罫紙 明治35年6月8日付

宛 東京市本郷區臺町三十六 東北舘にて 野村長一様
発 盛岡市四ツ家町六九 猪川浩 拝
 
  (封筒の裏面に)講演部大会に四年から二十人出るといって大さわぎ也、世に弥次馬程いやなものかなし、実に困り切りてる也、この仲に慶イ坊さんと予と抱琴と杏子と四人で写眞してやろかと思ってる、可香庵便り、
(罫紙四枚の上部欄外に)
 
  ○面白き志らせ一つ二つ、
  ○君の父上が予に難儀をさせたといって白牡丹小サイ包み五包貰らった、僕ハその厚意特に君が煙草を呑むから僕も呑むだろふといふ考へから送って頂戴するなどハかたじけない話たが、無實事の上に於煎餅一枚とに相当せぬのである、三郎の温澤友人の温澤めでたしめでたし、
  ○君ハ待るという字を乱用して甚だいかん、国語の先生かたるらく侍るハ會話にかぎりて用するなりと心し玉へ、呵々、
  ○今宮川君来て手紙を見せて居る所也、宮島の繪ハガキ見て「自れァ見た事ない位れァ奇麗なハガキだ」といってほめて居る所也、
  ○本書の特長
一、推理を以って読むべき事ノウズイ発達の方便也、
一、字の読めざる事、
一、この手紙何の為めによこした全体の意味の通せぬ事、ノウ力を□ル為メナリ、
  ○キ(箕)人生閑居て日々可香庵に通学す、通学誤解する勿れ「毎日通って学問をベンキョウするからなり、
遠山青葉を望んで前に清流滾々として流る涼風オモムロに来りて面を打つ、快いふべからず、眠るにテキトウ勉強テキトウ、大願成就
一、この手紙ハ焼キスツル事。これ復学の為め申付クル者也、胃病大博士御許キ(箕)人申すナドト、大時代そういってる中に紫好再び新皃(貌)を交ぜてこの中に演つ筈也、あらあらかしく
この花ハシメシヤガといふ花也、(押し花封入か?)
 
(本文の前に)
○本書の得長
一、再読せざる事、一、文章が意味をなさゝる事
こヽで今長文の音連れせんものと決心した今まで(弟出盛して居る)弟子英語を教へて大いにくたびれ、君の手紙を見て元気に復し大いに論ぜんものと決意した、今朝君ノ父上に逢ふて在学證書の事や色々の手続を踰んだ、授業科ハ学校に席のツキ次第出す積りなり、銭ハ手に持ってます、
 
(本文)
眼が悪くなったといふから大きく書く事にしましょう、予は文学者を罵った覚えはない、若し之れありとすれば信仰なきものとして貶したる筈なり、豈に予と雖も斯く変化にさとき動物ならんや、予にハ予特有の文学あり彼の狩野美信が切腹、ソクラテスの毒殺、日蓮の遠島、水戸黄門の閉門、これ等が予の眞の文学者と称すべき價地を有する人なり、新聞雑誌で成長した輩を以って文学者となさず、癖論と云ば云へ敢て関せず、只藝術の為めに身命を擲つの勇気と信念とを有する人その人を眞の藝術家として尊號を奉らんとするものなり、俳句は心酔した者か今更俳句を罵しるの比にあらず、予は眞に信念の必要を認めきさればして起る罵倒なり、何ぞ無意味に俳句はあきが来ればとて貶褒する彼等とハその性を異にするなり、日蓮が眞言亡國律國賊禪天魔云々の語は天下衆生に對する日蓮が大慈大悲の慈悲が出でたる者なりといふに非ずや、予の言と雖も然り世の最大遺物数十勇年不朽の作を出さん事を歎するの切望に出でたるなり、恋愛神社を本尊として論する信仰者ハ当世青年文学者以外にあらざるなり、要するに予め攻駁は不品行なる文学者それを有難がる文士輩を罵るものにして眞の文学者文学を攻駁するに非ず、予は文学ト文学者に對する敬虔の念は蓋し神の如くなり、あやまる勿れ軽躁なる俳句的人間と同一視するなくんば幸也、されど予は眞理を得たり、曰く「人間は小宇宙なり」これなり、法体を傷んずるハ宇宙即ち人間を傷くるなり、故に日蓮が折伏逆化眞の道理なりと信ずるものなり、即ち阿部三柊兄曰ハく、「人間は小宇宙なり」との確き信念を維持し得るものハ眞の信仰を得たる者なりと予は誤まれり、只今まで文学者の何のと罵倒せしハ予自心(身)を罵倒するに当るなり、先ツ自れを信托せよ、万事これより成らん法体に向って宇宙に向って罵倒するの權利を予ハ保たざる也、(この手紙は続きがあります)

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