盛岡タイムス Web News 2012年 3月 6日 (火)

       

■ 〈イタリアンチロルの昼下がり〉143 及川彩子 要塞都市の美

 
     
   
     
  戦争なくして歴史が語れないように、世界各地に残る砦や城壁、堀の跡。万里の長城のような巨大な戦略防衛線から、ここアジアゴの小高い山頂にある第一次大戦時に造られた砦までさまざまです。

  戦略上、外敵から重要な地形を守るための要塞。そこには兵器が備わり、防壁かつ軍事の最先端というイメージがありますが、本来は、住民保護の避難所だったと言われます。

  その象徴的存在で、ヨーロッパの各国でみられる星型の要塞都市。各角に兵舎を置き、戦略的にも死角ができにくく、さらに街の姿としても美しい、今や一種の芸術です。

  ここ北イタリアのパルマノヴァ市も、17世紀建造の星型要塞都市。八角形の街の周囲は星型の緑地帯、街の中心も完璧な八角形の大広場という理想的要塞として知られます。

  整然とした美と機能性…そんなイメージが逆転するような、もうひとつの要塞都市が、モロッコにありました。要塞は、モロッコ語で「カスバ」。

  古都マラケシュから四輪駆動車で4時間、アトラス山脈の蛇行道を越え、ひたすらサハラ砂漠方向に進むと、荒涼とした風景の中に、息をのむようなカスバ、アイト・ベン・ハドウの村が現れたのです。

  遠くからははげ山にしか見えませんが、良く見ると、山肌には土色の住居がびっしり。まさにカメレオン作戦のような、カモフラージュされた要塞都市でした〔写真〕。

  家は全て日干しれんが。長雨には適しませんが、乾燥地帯では、見かけ以上に耐久性があり、建設資材として最適なのだそうです。

  要塞内の道は、階段だらけの迷路。まるで、粘土細工の箱庭に紛れ込んだようです。乱立する塔は、見張り台にもなる穀物倉や羊小屋。電気はありません。

  今では、数家族が暮らすのみと聞きましたが、好奇心から歩き回る観光客には、足に柔らかい土の感触が心地よいのでした。


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