盛岡タイムス Web News 2012年 3月 24日 (土)

       

■ 〈昆虫パワーをあなたにも〉22 鈴木幸一 賢治さんの「よーさん」から養蚕イノベーションへのお誘い

 岩手大学図書館のアザリアギャラリーでは現在、盛岡高等農林学校時代の教材掛図展のカイコをベースにして企画展が開催されています。

  賢治さんの小学時代の作文「よーさん(養蚕)」が、明治39(1906)年の岩手県児童学芸学業成績調に収められています。彼は昭和8(1933)年9月21日に亡くなりました。その最期の日を迎えた2階の部屋は、元カイコを飼育していた蚕室で、板の間の一部に畳を敷いたところだったそうです。

  この賢治さんと養蚕との関わり合いの時代から100年以上を経て、岩手でも養蚕農家戸数が23戸となってしまった今日、科学技術は新しい養蚕のイノベーション(革新)を起こせるのかという挑戦的な企画展となっています。

  わが国の科学技術は新しい学術の扉を開きつつ、社会に貢献する新しい産業を生み出す使命も担っていますが、逆の見方として、独創的な科学技術の成果により、隆盛期から消滅しようとしている産業から姿形を変えた産業の創出へと変換できるのではないかと考えられます。

  その典型的な産業が、賢治さんの小学生時代に輸出額の約52%も占めていた生糸(シルク)生産のための養蚕であり、今でもシルクに対する世界の高い需要は中国・インド・ブラジル・タイ・ベトナムのような国々の養蚕で支えられています。

  わが国の養蚕は風前の灯ですが、科学技術分野は悪戦苦闘しながら新しい養蚕を模索しています。例えば、従来型のシルクの大量生産を目指すのではなく、遺伝子組換え体カイコから理想の最強の繊維と考えられているクモ(蜘蛛)シルクを生産することを目標にして、研究開発が進められています。

  岩手大学としては、オリジナルな食べるシルク化粧品、アンチエイジングのための桑食文化、カイコ冬虫夏草による抗物忘れ食品などの開発を目指しています。

  賢治さんの作文「よーさん」に最初に出会ったのは、盛岡市材木町の(株)光原社さんです。ここで、「注文の多い料理店」が出版されました。そのモデルとなった中村家住宅は、何と今では桑食文化のメッカとなっている「(株)更木ふるさと興社」が設置された北上市更木地区にあるとのことです。これもまた
、賢治さんの導きでしょうか。

(岩手大学地域連携推進センター長)

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