盛岡タイムス Web News 2012年4月 5日 (木)

       

■ 〈春又春の日記〉53 古水一雄 読我書記(44冊)その1

 「読我書記」と題されたこの日記は、6月23日から9月5日までが書き付けられている。最初のページには「四十二年夏昨非録」と大きめの文字で書き、次ページ本文冒頭には「日記ハ第七ヨリツゞク」とある。そもそも“第七”なる日記がどれにあたるのかも判然としないし、何よりも前回の第四十三冊が5月27日から9月8日であるからかなりの部分が重なっているかに見えたが、再度調査したところ、実は通巻43冊の書き始めは5月27日であるが、書き終わったのは6月20日であり、通巻44冊の日記を9月5日で終えると、その続きの2日分を通巻43冊の後ろに書き付けていたのであった。なぜそのような書き方をしたのかは不明である。
 
  さて、6月23日の日記には、東和の田瀬に住む武蔵に沢内の様子を問い合わせた返書が届いていてその内容が書かれている。沢内村は、広大な土地に一カ所二三軒程の集落が点在していて、馬車も通らない人力の車の通っているかどうか怪しい本州有数の面積を有する大村であるとある。さらに熱を出して寝床に伏している露草を見舞って沢内村の話に及ぶと次のように教えてくれた。
     
  「読我書記(通巻第四十四冊)」  
 
「読我書記(通巻第四十四冊)
 
 
   沢内談ニイフ、沢内ハ花巻ヨリ山越エ
   スルモ雫石ヨリ山伏峠ヲ通ルモ黒沢尻
   ヨリ平和街道ヲ行クモ、皆十三里ナソ
   ーナ、山伏峠ノ方ハ俥馬不通、景勝絶
   佳(景)平和街道ノ方ハ雨宮軽便鉄道
   人車等アリ、町ラシキ町ハ只一新町ア
   ルノミ、新町ハ小流ヲ中ニ両側ニ人家
   数十軒、僅カニ町ノ形ヲ成ス、風俗又
   一風頗ル客眼ヲ牽(ひ)クモノアリ、
   新聞ハ秋田モノヲ讀ム、山ヲ越エテ直
   チニ秋田ノ六郷ニ行ク可シト、思フニ
   県内ノ僻地冬ハ雪深キコト数十丈ナラ
   ンカ、
    ※平和街道|和賀郡黒沢尻町と秋田
     県平鹿郡横手町を結んだ道路、現
     国道107号線
    ※雨宮軽便鉄道人車|和賀仙人と黒
     沢尻間に雨宮敬次郎によって創設
     された軽便鉄道、当初は8人乗り
     の客車を3人の車夫が交代で押し
     た。
 
  春又春にとっては意にそぐわない縁談ではあったが、やはり相手の女性については気がかりだったとみえ、武蔵や露草に女性の生家である沢内村の土地柄について尋ねたりしているのだ。
  翌日24日には、見合いに向かう件(くだん)の女性を主人公に、同じ車両に居合わせたという設定の小説仕立てにして短編に仕上げている。
 
  さて、この年の6月には騎兵第三旅団が弘前から盛岡に転営されている。春又春日記の中にもそのときの様子が記されているのである。
     
  「肴町を通る騎兵たち」  
 
「肴町を通る騎兵たち」
 
 
   (七月五日)
   佐々木君ヲ訪フ、病状頗ル重シ、腹痛
   癒エタリトテ語リシガ少クニシテ又黙
   シテ言ハズ、羊乳一杯去、枕頭ニ金魚
   アリ、金魚赤ウシテ余ガ悠を曳クコト
   頗リナリ
   帰途、材木丁、茅丁御山祭ノ賑ワヒ、
   門行燈ノ下ヲ行キ花屋根ノ下ヲ行ク、
   停車場ニ出テ騎兵ノ新着ヲ迎フ、兵二
   百騎余、将校一二ノ肥大ヲ除ク外アマ
   リニ其ノ小ナル見グルシキ程ナリ、今
   更国人ノ矮小ナルヲ恥ズ、馬上剣ヲ担
   グ、剣長ウシテ帽ヲコエキ
 
   (七月十八日)
   騎兵歓迎会市中雑踏ス、賣立七十余圓、
   夏帽洋傘ナド動ク、夜ハ提灯行列トカ、
   風涼シ
 
  騎兵第三旅団は、第23聯隊と第24聯隊で組織されていて、第23聯隊は岩手県内、第24聯隊は新潟・長野の出身者であったという。
  春又春が目にした騎兵隊員の体躯は、将校数人を除いて矮小なものがほとんどで、いかにも貧弱ないでたちに失望を感じたようである。
  明治時代の徴兵検査を調べていると、近世こもんじょ館を主宰なさっている工藤利悦氏から「現行戸長提要」(管令出版社蔵版)なる書物を紹介された。この書物は戸長(明治前期に町村の長として行政事務を扱った役職)が行政事務を執行するために手がかりとしたものである。その中に“徴兵事務條例・検査”の項目があり、「第五十三條」には砲兵は五尺五寸(166・7a)以上、歩兵騎兵工兵は五尺三寸(160・6a)以上となっている。ちなみに春又春の身長は五尺五寸五分(168.2a)であった。
  この当時の日本男子の平均身長は154〜155aといわれているから、騎兵の身長は決して一般人より劣っているわけではない。しかし“其の小なる見ぐるしき程なり”の嘆きはどこからくるのだろう。具体的な騎兵のイメージは定かではないが、軍刀の先が頭を越すのが春又春には気にいらなかったのだろうか。


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