盛岡タイムス Web News 2012年 5月 24日 (木)

       

■  〈大連通信〉12 南部駒蔵 どこでも平気で痰(たん)

 私は大連が好きであるが、好きな大連、良いことばかりではない。困ること、不快に感じることも多い。多くの日本人の感じていることなのでそれを取り上げてみよう。お前の「大連通信」、大連の良いことばかり書いて、実際に行ってみたら、不愉快なことが多かった、と後で慰謝料(?)を請求されないためである。

 大連で生活して、不快に感じることは、いろいろあるが、その一つにどこでも平気で痰をする人が多い、ということがある。連れ立って歩いていて、相手が不快に思うかもしれないのに、平気で痰をする。恋人同士でも平気である。食堂の店の中でも平気である(もっともそういう食堂は汚い、粗末な食堂であるが)。私は毎朝、中国人に混じってグラウンドを散歩しているが、連れ立って5人くらい並んで歩いているうちに、一人が痰をする、手鼻をかむ、つばを吐く(ほとんどの人がティッシュペーパーを持たないようだ)、そのためせっかくの競技用のコースもところどころ痰がついていて汚く思わず目を背ける。

 そこで多くの日本人は疑問に思う。

 @いったい、中国人は人前で痰をするのを見て、汚い、不愉快だと感じないのだろうか。
 A自分の家でも痰をその辺に撒き散らしているのだろうか。
 B家庭や学校で痰をするな、と教えられていないのだろうか。誰か注意しなのだろうか。

 これに対する解答。

 @多くの中国人は人前で平気で痰をするのを見慣れていてあまり汚い、不愉快だと感じない(らしい)。少なくとも多くの日本人が感じるほどの嫌悪感は抱かない。そんなに人が不愉快だったら、しないはずである。日本人にとってとても不愉快なことでも、誰でもそう感じるというわけでない。特に習慣化された行為についてはそういうことがある。「汚い」という観念は絶対的なものでなく、個人差や民族の差が大きい。

 A自分の家の中ではさすが痰をしない。ところが一歩外に出ると、どこでも平気である。公共のものという感覚、公共精神が乏しい。

 BK君の話によると、「思想品徳課」という科目があって、小学校では痰をするな、ちり紙をその辺に捨てるな、交通規則を守れ、などと日常のマナーについて熱心に教えられている。その内容は外国に行った中国人から、中国のどういう習慣が批判されるか、悪いかを聞いて作られたものだという。

 学校ではちゃんと教えられながら、なかなか守られないのはなぜか。K君はゴミをゴミ箱に捨てず、どこでも平気で捨てるということについて、面白いことを言った。

 母に「どこにゴミを捨てるの」と子どもが聞いた。母は「もう汚いからどこでもいいよ」と答えた。つまりもうその辺はゴミが散らかっているのだから、平気でどこへでもゴミを捨ててかまわないという訳である。なるほど周囲が汚ければ、自分一人清潔を心がけてもどうしようのなく、周囲にどうかするだろう。

 中国でも一流のホテルやデパートなど清潔で、痰をしたり、ゴミを勝手にその辺に捨てるということはないだろう。要するに、いくらゴミを捨てるな、勝手に痰をするなといっても無駄でまず、そういうことができない、しにくい環境を作ることが先決で、中国はまだそういう環境が整っていない、ということであろう。

 ここで断っておかなくてはならないのは、中国人のすべてが平気で痰をするというのではない、ということである。周囲を考えず平気で痰をするのは、男性が圧倒的に多い。教養があるとか、ないとかいう言い方は人を差別するようで好きではないが、中国では貧しい学歴のない農民と、大学を卒業した教養のある人々との格差が極めて大きい。

 K君は「中国は13億の人口がある。その中には、文化の程度の低い人、無学で貧しい人も多くいる」と言った。中国は人口の半数が農民である。

 私は農村で育ったが、幼い頃、村人が道に痰をしたり、手鼻をかんだりしているのをよく見かけた。日本もかつてはそうだったのだ。学校教育、社会の常識が発展して、そうした悪習はほとんどなくなったが、昔はそうでなかった。ようするに中国はまだ「遅れている」ということなのだ。中国の指導者たちもそういうことを自覚していて、「文明国になろう。文明国のマナーを身につけよう」と呼びかけているが、国民の意識はなかなか変わらないようである。しかし、やがては教育が普及し、経済的にも豊かになり、世界中の人々との交流が進められていくなかで、中国も大きく変わるに違いない。大国を誇る中国ではあるが、半面、教育も行き届かず、まだ磨かれぬ原石のように素朴な、未開の自然のままの部分が残っている。日本だってそういうことがないとも言えないだろう。

 磨かれぬ 原石かとも思ひたり 中国の民 いまだ粗野なり (元岩手医大教授)

 


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