盛岡タイムス Web News 2012年 5月 29日 (火)

       

■  〈詩人のポスト〉金野清人 墓碑銘 

故郷のお墓は
いつも
波静かな広田湾を向いて
磯の香りを漂わせ
静かに立っていた
 
あの日も
鉢巻き姿の浜人は
墓地沿いの道を六ケ浦岸壁に駆け付け
沖合を目指して波を蹴立て
カモメがのんびり後を追っていた
 
ところが青天の霹靂
凪いでいた三陸の海原に
山のようなどす黒い波が現れ
潮の匂いの満ちた故郷を一気に呑み込ん

 
猛り狂った波濤は
家も 浜人も 漁船も掻っ攫い
こともあろうに
先祖代々のお墓まで
根こそぎ抉りとり
薙ぎ倒してしまった
 
帰郷した私は広田湾に向かって
逝ってしまった親しい浜人の名を呼んだ
叫びつかれた果てに
痛む心の奥深く
小さなお墓を立てて
短い手紙を刻んだ
 
 海を愛し
 海に生きた浜人よ
 思い出の墓場には埋められません
 いつまでも
 生き残った私のこころの
 いちばん深いところで生きております


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