盛岡タイムス Web News 2012年 5月 30日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉283 伊藤幸子 詩歌文学館賞

 寒日を重ね重ねて強霜(こはじも)はひしひし金の芝侵すなり
                           佐藤通雅

  ことしの「詩歌文学館賞」受賞作「強霜」より。5月􏇩日、北上の詩歌文学館にて贈賞式が行われた。詩部門は須藤洋平氏の長いタイトル「あなたが最後の最後まで生きようと、むき出しで立ち向かったから」、短歌は右の歌集、俳句は宇多喜代子氏の「記憶」だった。東北六魂祭と重なったためか、例年より聴講者は少なめだったが充実の一日だった。

  佐藤通雅さんは水沢生まれ、仙台在住の􏈔歳。宮城県の高校勤務、平成􏇞年定年退職。河北歌壇選者、宮沢賢治学会理事、児童文学の著書も多く、重厚な評論集「宮沢賢治 東北砕石工場技師論」は第十回宮沢賢治賞を得られた。

 「強霜」は昨年9月刊行。 「3・11を境に一時は溢れるように歌が湧きました。しかし『震災歌人』とか『震災歌集』のような形で時流に乗る気になれず、収録しませんでした」とあるようにこの第九歌集には平成17年から22年までの550首が収められている。感銘歌を抽出、書き写したら129首に及んだ。二読三読するたびに増えてゆくことだろう。

  「はやて行きこまち入りきてやまびこの去りたるのちをつがひの土鳩」「片平のヒマラヤスギは屋根越えて天に触れ風の流れを捕らふ」「どうしても固有名詞が出てこないあるかたまりとしてそこにあるのだが」私の好きな歌。「子ら置きて帰ればサッカーボールにも一夜の長き時間あるべし」「予期せざるときに切れたる電球を外すときまだ温もりのあり」授賞式での選評で小池光さんがあげられた歌。また、毛筆で「正法眼蔵」を毎朝書かれるという歌もあるが、私は「乳房(ちちふさ)をふたわけにせるショルダーのひと一途にて地下ゆあらはる」「床(とこ)とよむか床(ゆか)とよむかこの一首相聞なればやはり床(とこ)ならむ」に頬がゆるむ。浄瑠璃本は床本(ゆかほん)、舞台は「床(ゆか)に上る」と聞いた。蔵王の峰を「ふたわけざまに」茂吉翁も喜びそうな眼福の歌。

  「長髪を洗ひて天日干しにする間に読む歌の大方よろし」詠むでなく読む歌。長髪が特徴の氏は今回は束ねずに肩に垂らしてご登場。

  「〈いつきてもおかしくない〉とけふもいはるいつとはいつか地震よこたへよ」「近いうちに必ず来ると予知されし地震寸胴(ずんどう)のやうな雲だな」まだ大震前の作。それを体験してしまった今読むと、さらなる未来の天災かと不安になる。大震一年、よく「言葉を失う」というけれど、表現者は言葉を失ってはいけない。言葉を信じようと、この贈賞式フォーラムで勇気づけられた。
(八幡平市、歌人)


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