盛岡タイムス Web News 2012年 6月 13日 (水)

       

■ 〈日々つれづれ〉125 三浦勲夫 緑子と赤子

 リンゴの実、ブドウの実、カリンの実。まだまだ小さく、緑で、軽くて、ヘタを下に、実を空に向けています。たわわになれば、重力に引かれて垂れ下がります。サクランボの実は放射状に伸びて、ゴマ粒大から今は真珠大になっていて、きのう一日で緑色から赤に変わりました。きのうは27度の暑さでした。あちこちに緑の小さい実が顔を出しています。これから赤く、あるいは紫に、熟していきます。古い言葉「みどり子」を思い出します。生まれて間もない子。赤子とも言うけれど、「緑」は新鮮な若さを強調します。生まれたばかりの実は文字通りの「緑子」です。

  6月初めの季節。実は実なりに、葉は葉なりに、草は草なりに、すべてが緑で初々しい。いつも来る川辺も滴るような新緑です。遠くの山並みも緑に光っています。鳥の声も緑の森のうっそうとした葉のカーテンの奥からステレオのように響きます。ウグイス、キジ、カッコウ、ホトトギスたちが「わが世の夏」を謳歌(おうか)しています。

  これから暑さが増し、あるいは雨が降り、どんどん実は成長します。成長して熟し、食べごろを迎えます。夏に熟す実も、秋に熟す実も、どれも初夏の滴る緑の中で生まれています。ニセアカシアの花の香りが漂うと、大きくて黒くて丸い蜂が現れます。こちらがいたずらせずに、手を出さずに、歩いていけば決して刺しません。ちょっと怖いけれど、自転車の人も、歩く人も、走る人も無事のようです。

  虫もこれから現れます。トンボ、セミ、クモ、バッタ、チョウ。爬虫(はちゅう)類も仲間に入れれば、ヘビやトカゲも出てきます。虫たちが川辺の散歩コースにいっぱい現れます。蛹(さなぎ)から羽化するセミやトンボの体は白だったり、うす緑だったりします。数時間のうちにそれが成虫の色に変わります。

  この散歩道も、夜は薄気味悪くて来たことはありません。タヌキが出てきます。トウモロコシなどの作物を失敬します。もし夜にここに来れば、真っ暗な夜空の星がきれいに見えるでしょう。今まで一度も見たことがない「天の川」が見えるかもしれません。乳白色の天の川です。ミルキーウエー、それが真っ暗な夜空にくっきりと肉眼で見えるそうです。銀河系はそろばん玉のように円盤形で、距離が長い長径を通して見るとそこにあるたくさんの星が、天の川になるのだそうです。星の密度が高いからです。

  太陽系をその小さな一部としている銀河系、その銀河系をいくつも取り込む銀河群、さらに銀河団。無数の銀河が宇宙に存在するそうです。広大なその宇宙は昼には見えなくて、夜に見えてきます。日中は太陽の光が星を消します。目にしるし真昼の光。そうは言うけれど、真昼の光が広大な宇宙を消しています。日が沈んで夜になると宇宙が現れます。

  星が姿を隠している日中、木の実は緑から赤に成熟します。宇宙には貨幣の表裏のように、光と闇の世界があって交代します。光の世界は実は闇の世界に包み込まれています。大気がなく黒い宇宙に浮かぶ微小の地球は、生まれたばかりのブドウの実のように、青い惑星です。大気に包まれて青く輝いています。地球は宇宙の「みどり子」です。人間はさらに地球のみどり子です。
  (岩手大学名誉教授・元放送大学客員教授)


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