盛岡タイムス Web News 2012年 6月 13日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉285 伊藤幸子 ようこそ!岩手へ

 夜半すぎて歓迎の雪が降りはじめ岩手最初の朝をむかえつ
                                今川篤子

 短歌誌「まひる野」6月号より。私はこの日を待っていた。実は4月1日、「まひる野」編集人の橋本喜典先生より大変うれしいお葉書を頂戴したのだった。このコラムに橋本先生のお歌をしばしば引用させて頂き、そのご返信に「盛岡タイムスの〈口ずさむとき〉で〈昭和の子〉拝読。三誌と歌集からも引かれて昭和の子の私を浮き彫りにして下さいました。四月二日、〈まひる野〉の歌の仲間の今川篤子さんという女医さんが東京の病院から『志をもって』遠野の病院に赴任します」とあり、私は眩しい思いで頂いている旧号を読み返した。

  そんななか、届いたばかりの6月号に、岩手・今川篤子さんのお作6首を拝見、「ようこそ!岩手へ」と歓声をあげた。「いくつものこぶしを天に突き上げて枯れ枝の火花を放てる銀杏」「わが家から早池峰山を探さんと四方(よも)の山々見渡しやまず」けさはまた「きらきらと朝日を浴びて雪の舞うこの地にはじめてゴミ出しに行く」と、新任地での生活のページが開かれた。東京から『志をもって』いらした先生。5月号には元の職場の皆さんとの惜別の様子が詠まれ胸を打つ。「あたたかき顔顔顔に囲まれてこの瞬間に手を合わせている」「枯尾花もう誰もいない神経内科の研究棟のガラスにうつる」ワァー、さびしそう。どんなにか慕われて、去りがたかったことでしょう。でも「新任地に伝説あれば口々に河童に気をつけよと言いくるるなり」なにしろ遠野だもの。

  「ねこにはねこなりの悩みがあらむ前足に頭をのせて思索の時間」「大好きだと言うとゆっくり目を閉じるおだやかな顔日だまりの猫」先生の伴侶はネコちゃんか?いや暑苦しいことは置いて、今川先生の作品世界には猫のテリトリーが実に品よく楽しく描かれる。

  3年前の秋には「工業都市の診療所」との意欲作7首が目を引く。「この地では病気の原因鑑別にまずは酒を疑うと知る」「栄養と休養の指示も守れない貧困に何も処方のできずに見送る」社会の底辺に目を据えて説得力あり。

  「歌つくればわかってくれる人ありてそのほほえみに感じるつながり」がんばりすぎて疲れた日にも、歌のつながりに緊張を解く。岩手の暮らしにもそろそろ慣れていらしたころだろうか。遠野の病院を訪ねてみたい。「歌のつながり」というよりも「認知症の検査施行するわれが目のすみにちらと日付確かむ」との今川先生の診察を受けるのが先かもしれない。
(八幡平市、歌人)


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