盛岡タイムス Web News 2012年 7月 7日 (土)

       

■ 〈賢治の置土産〉270 岡澤敏男 賢治も牧民会に出入り

 ■賢治も「牧民会」に出入り

  昭和2年の詩稿にみられる「きみたちがみんな労農党になってから」、「サキノハカといふ黒い花といっしょに/革命がやってくる」、「新しい時代のマルクスよ」という文言は、明らかに社会主義思想を表明していることに間違いないが、賢治がいつ頃から革命思想に接近したのか明らかではない。ただ考慮すべきことは、石川啄木への関心が短歌のみならず思想面にも及んでいることです。浦田敬三氏の資料によると大正10年7月、東京の在京岩手県人会が「記念碑建立」に賛助するために結成した「啄木会」に、賢治が同志53人とともに加入しているといわれる。上田哲著『受容と継承の軌跡』(啄木文学編年資料)によって東京の「啄木会」結成は7月10日とわかり、賢治は4月より8月中旬まで在京していたことが年譜にあるので参加する機会はじゅうぶんにあったとみられる。また石川金次郎、準十郎兄弟等が盛岡で結成した社会主義研究団体「牧民会」に賢治も出入りしていたことを準十郎が『岩手日報』(昭和44年8月21日)掲載の「啄木と賢治さん」で報じていることも注目してよい。さらに賢治が啄木の命日に文芸講演を予定していたという報道もある。それは昭和3年3月20日の『岩手日報』の「啄木の命日に文芸講演会」(十三日花巻で)という見出しの記事で、「来月十三日が薄幸詩人石川啄木の命日にあたるので花巻在住の文芸愛好者の集いを聖燈社が主催し同夜午後六時より花巻座で文芸講演会を催すことになった。阿部康蔵、宮沢賢治の二氏を始め数名出席すると」と報じている。ところが4月13日の啄木忌に先立つ3日前の4月10日に労農党・評議会・無産青年同盟の三団体に解散命令(四・一〇事件)が出され、花巻の稗和支部も連座することになって文芸講演会は中止になったらしい。それにしても、これらの隠されていた事例は、賢治の革新思想形成の歩みに手掛かりを与えるものとみられる。

  ところで、主催した「聖燈社」とは花巻で発行されていた詩誌『聖燈』の発行元で、編集発行人梅野健造(ペンネーム鮎川草太郎・高涯幻二)と賢治とは詩を通じて深い交流があったらしい。梅野は『聖燈』創刊の前に大正14年に『濁流』、同15年に『無名作家』を創刊させている。賢治は『無名作家』に「陸中国挿秧の図」、『聖燈』に未定稿「稲作挿話」を寄稿しています。梅野健造は昭和5年11月に「岩手共人会事件」に連座して検挙され、40日近くも留置されたのち12月中旬に釈放されました。病後であった賢治が梅野を慰労しに訪れたときの様子を次のように語っている。「12月も暮れの夕方、豊沢町の自宅から病気療養中の宮沢賢治さんが訪ねてきてくれた。玄関口に立ったまま温和な表情を曇らせながら心から労りの声をかけられ、〈一晩でも温泉に出かけて体をやすめるように〉と言われて貴重な見舞金を恵与され、暗い雪空の町を帰っていかれた…」というのです。梅野は天沢退二郎・高橋万里子・栗原敦との対談で、初めて訪ねた賢治が農民芸術について「真の農民芸術はマルクス主義やアナーキズムの思想的背景とは異なり、人類愛の理想に立つ生命の芸術である。農村のもつ伝統的な文化遺産が働く農民自身によって守られ、創造されなければならないと思う」と語ったことを証言しています。

  ■「労働農民党稗和支部開会式」の記事

     (大正15年11月2日『岩手日報』より)
(花巻)労働農民党稗和支部発会式は三十一日午後六時半から花巻川口町朝日座に催された何せ当地としては労農党の会合が初めてであり、夫上定刻近き頃花巻署を繰り出した伊藤署長以下制私服の警戒が厳重なので、町民の好奇心をそそりまず七分の入りで大部分は町民が多い。やがて中央から来た細野三千雄、浅沼稲次郎の幹部着席するや、山際六郎君開会の辞を述べ、議長推薦に入るや泉国三郎議長に推され、泉君議長席に着席、書記として菅成夫、安原源次郎の二君を任命つづいて小館長右ェ門君から、稗和支部創立の経過報告あり規約政策宣言等形の如く可決して、役員選挙に移った結果、五名の選考委員に依って左の諸君役員となる。(人名省略)

夫れより祝辞祝電の朗読あり役員代表として、泉国三郎君の挨拶があり演説会に移るや、聴衆益々加わり凡そ五百名、ホロ酔い気嫌の野次馬まで入り込み、党員と聴衆とが野次の応酬あって、一時喧ソウを極めたが案外平穏裡に同十時閉会した。応援弁士並びに演題左の如し

  岩手県の同志へ 労農党仙台支部書記長 赤津益造
  政治運動と経済運動  弁護士 細野三千雄
  労働農民党の使命 中央宣伝部長 浅沼稲次郎
  既成政党の自滅と無産青年の使命 泉国三郎
 

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