盛岡タイムス Web News 2012年 9月 18日 (火)

       

■ 〈イタリアンチロルの昼下がり〉157 及川彩子 潮の香りのキオッジャ

     
   
     

 長かった夏のバカンスも終わり、9月2週目から、わが家の娘たちも新学期が始まりました。初日は「夏の思い出」の報告会がクラスの恒例行事。自慢気に持参したのは、今夏、家族で訪れた漁業の町キオッジャの写真集。カメラマン気取りで撮りまくり、自分で編集した自信作です〔写真〕。

  キオッジャは、アドリア海沿岸のラグーナ(干潟)に浮かぶ人口5万人ほどの町。運河と無数の太鼓橋で結ばれた街並みから「小ベネチア」と呼ばれます。

  11世紀に、海産物と塩を扱う大陸の玄関口として栄え、以来、アドリア海随一の水揚げ量を誇る漁業の町になったのです。

  その古い漁村が残る歴史地区の対岸は、海水浴場。長い砂浜のパラソル群、近代的ホテルも並びます。

  ラグーナ特有の風景と海水浴も楽しめるとあって、ヨーロッパから多くの観光客を集めるキオッジャ。高原の町アジアゴのわが家から車で2時間。街の周辺には、海の別荘を持つ友人も少なくなく、いつか訪れたいと思っていたのです。

  ドイツの詩人ゲーテが、ベネチアとキオッジャを訪れたのは、今から200年以上も前。初めて見た大海原、その喜びに貝を拾い、海岸の植物を「高山植物のように強く、しなやかだ」と観察し、干潟に町を築いた昔人の知恵に驚嘆したと言われます。

  8月の昼下がり、心地よい潮風の中、運河沿いに並ぶ小型の船、湾岸のムール貝養殖場、にぎわいを終えた魚市場…ベネチアとは一味違った古き時代の原風景を楽しみました。

  また夜は、海沿いの小さな店のお任せメニューで、マテ貝・帆立・スズキの前菜、手長海老、蛤のパスタに舌鼓を打ったのです。

  北イタリアの魚食を支える「この町には何の心配もない。数千年の生命がある」とゲーテが言った小さな漁村の底力。かすかな波音、潮の香りに、夏の夜は更けていきました。


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