盛岡タイムス Web News 2012年 10月 3日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉301 伊藤幸子 書かばやわれは

 震災にて世を去りし人空襲にて殺されし人書かばやわれは
                                来嶋靖生

 9月15日、明治神宮参集殿にて「第33回全日本短歌大会」が開催された。応募総数1110組(2首1組)の中から大会三賞、選者賞、秀作賞、優良賞、奨励賞が発表され、拙作もささやかな栄に浴したので出席した。

  三賞は次の三氏。文部科学大臣賞「海霧(じり)はれてクナシリ見ゆる午前四時二百頭の牛牧へ追ひ込む」札幌市 渡邊秀雄。毎日新聞社賞「閉校の花壇に残る水仙の数は去りゆく子らより多し」群馬県 眞庭義夫。日本歌人クラブ賞「結論は出せぬ会議と見定めて一人二人と口閉ざしゆく」仙台市 角田正雄。もちろん1組2首ともに高水準が求められる。

  出席者には本日の入賞作品集が配られ、選考経過発表、表彰、講演と進んだ。会場には現代短歌新聞社の方々や各出版社の新刊案内コーナーも盛り上がっている。

  講演は来嶋靖生氏。「昨日の歌今日の歌」と題して、この大会詠をはじめ、過去の震災や戦争詠にもふれ、実作者の胸に深くしみこむ内容だった。関東大震災では「まざまざと天変地異を見るものかかくすさまじき目にあふものか」と詠んだ佐佐木信綱の歌。「投げ込むや筵(むしろ)のかばねもんどり打ちすなはちあらず焔の中に」土岐善麿の歌のすさまじさ。ムシロは普通の用途を越えてなきがらを包む悲惨さ。

  そして戦争の歌にふれ、「天皇に仕へまつれと吾を生みし吾がたらちねは尊かりけり」今西修軍曹の歌他、若く散っていった戦意昂揚の切なさは時代の不幸として今に記憶される。

  今回の作品集には天変地異や戦争といった非日常の不安感よりも日々の暮らしを見つめた破綻のない作品に注目が集まった。角田作品の会議の歌などは、複雑な内容の停滞する空気を詠み込んで、見逃しがちな現代の社会詠かと思う。政治、原発、教育等問題は山積だ。

  私は休憩時間に講師の歌集を2冊買った。来嶋靖生第十歌集「梟(ふくろう)」。平成16年から19年までの400首を収める。昭和6年大連市生まれ、戦後福岡に在住。著書、歌壇各賞多数。健脚で知られ、国内外の山岳踏破。「早池峰の森の奥処をさまよひて人に知られで啼くや梟」「遠く見てあくがれし姫神の稜線を今ぞ来りて踏み下り行く」親しく岩手の山々にも登られて氏の愛される音楽とともに愛誦歌がいっぱいある。「死ぬまでに今ひとたびと思ふこと幾つもありて老いゆくものか」だからこそ、「書かばやわれは」と静かな覚悟がにじみ出る。
    (八幡平市、歌人)



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