盛岡タイムス Web News 2013年  1月  24日 (木)

       

■  〈上海〜NY〜台湾ひと筆書き〉1 沢村澄子 履けない靴

 上海経由でNY(ニューヨーク)に向かったのは2012年11月14日だった。前日の13日は仕事に追われる日で、加えてニットの展覧会などやっており、これは30年ぶりに編み棒を握ってマフラーやら帽子などを編んで売り上げを被災地に送ろうというもので、雨の一日を仕事場へ展示場へと右往左往。街を走るうちにブーツも雨に濡れ、帰宅したのが夜9時半。翌日の成田からのフライトを目指し、盛岡発の夜行バスに飛び乗る時刻まであと1時間しかなかった。

  スーツケースに着替えを放り込み、パスポートだけは忘れまいと懐深くに挟み、あれやこれやと持っていくものが浮かぶたびに混乱し、ええい! もう財布だけで行くぞ! と居直ってはやはりと思い直し、向こうのギャラリーで見てもらおうと用意していた掛け軸の風呂敷包みはしっかりと抱えて、げた箱の靴をまさぐるや、玄関の鍵を後ろ手に閉めた。

  その時、何かしらの違和感があったような気がした。が、どうにも慌てていた。バタバタのなりのまま辛うじてバスに乗り、やれやれと靴を脱ぎ、スリッパに履き替えようとしてその瞬間ようやく、履いて来たブーツが左右違うものであることに気づく。

  成田空港に着くや、スーツケースを開けてスニーカーを取り出し、かさばるブーツをその空きに押し込んだ。NYへの2週間の旅は、こうして履けない靴をしまうことから始まる。

  これからまさに旅に出ようとする自分が、履けない靴を抱えていた。片方は新品で捨てる気になれず、もう片方はくたびれているのにやはり捨てられず。役に立たないものを抱えてどこへ向かう気かと思うと、哀れにもおかしい自分を見つけるようで、それでもとにかく、上海行きの飛行機に乗り込んだ。

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  これよりしばらく、昨年11月中旬から12月中旬まで約1カ月の上海〜NY〜台湾への駆け足旅行記をお読みいただきます。
(盛岡市、書家・沢村澄子)
 


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