盛岡タイムス Web News 2013年  1月  31日 (木)

       

■  〈上海〜NY〜台湾ひと筆書き〉2 沢村澄子 漢字が読めない

 上海の女の子たちはみな小顔で手足が長い。八頭身どころか十頭身かと思われるようなスタイルをしている。目は切れ長でシャープな美人顔。しかもそれぞれにとてもおしゃれだ。

  その美形でスタイリッシュな彼女たちが群れになって出勤する光景は圧巻で、男もおおよそそんな感じだから、地下鉄構内には妙な迫力が漂う。東京のそれよりずっと洗練されていてエネルギーに満ち、この身は弾き飛ばされるよう。勢いが違う。

  わたしが上海で最初に覚えた感覚は、この強烈な敗北感だった。「この人たち、この迫力にはかなわない」。飛躍して「斜陽」という言葉が頭に浮かび、日本という国、自分が日頃身を置く暮らしが既に、間違いなく峠を過ぎた下り坂にあることを知らされた。

  人民服から解放された彼らの、どこを目指しているのか強烈な欲望。それら盛んに鎬(しのぎ)を削っているさまは間違いなく上へ上へ、を目指している。しかも、ものすごい勢いで加速している。目指すその先に何があるのか、それを背中に坂を下るわたしたちは、そこで何を悟ったのか。

     
   
     


  ところで、中国語のできないわたしがそこを渡るには漢字が頼りだったのだが、それが読めないのである。氾濫する略字。例えば「●(電の略字、写真参照)梯」はエレベーター。「●」は「電」で、「電気の梯子(はしご)」という命名はナルホドなのだけれど、「●梯」では英語表記の方がまだ分かる。そんな看板、そんな漢字に囲まれながら、見事な大都会上海を滑るように移動した。リニアモーターカーの最速は時速435`。わずか数分で空港から市街地へと移る。その速さ、その身軽さ、のようなものに身を預けながら、いささかの当惑を覚えたのは、書家の職業病、ある種異常な固執によるものだったろうか。何千年を人間と共にしてきた母国語の漢字をあっけなく省略してしまう感性が、一瞬にして飛び去る景色同様、どこか怖かった。
(盛岡市、書家・沢村澄子)


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