盛岡タイムス Web News 2013年  2月  6日 (水)

       

■  〈日々つれづれ〉157 三浦勲夫 アルジェリア

 アルジェリアの砂漠、東のリビアと国境を接するイナメナスは豊かな天然ガス資源を地下に秘めている。英国の石油会社や日本のプラント建設会社(日揮)などが中心になって資源を開発している。そこでイスラム過激派のテロリスト集団が外国人人質を取った。結果はアルジェリア政府が人質の人命尊重よりも、テロリスト制圧方針を優先して、日本人10人を含む多数の死者を出した。日本人生存者は7人である。

  深刻かつ残念な結果である。ここにきて海外、特にアフリカや中東の資源国に進出する日本企業の安全確保の課題が浮き上がった。思えば日本は戦争の惨禍を経験し、そこから立ち上がったが災害列島として数々の犠牲を出してきた。一昨年3月11日の東日本大震災津波は福島第一原発事故も加わって、戦後最大の天災と人災の複合災害となった。

  そして今年1月16日の、アルジェリアでの日本人人質殺害事件は国際経済活動を舞台とする新たな人災である。政府は海外でのこの種の事件に対応し、自力でも人質を救出しうる対策として、自衛隊の出動を可能にする法改正をする方向だ。複雑な地球規模の企業活動を保護する手段は必要である。しかし、その実施に当たっては現地の政情なども十分、事前に理解し、現地人脈に通じた民間人をパイプ役として登用するなどの必要がある。

  今回の事件ではアルジェリアの南隣国マリの事情が絡んだ。犯行者の声明では発端はイスラム過激派が引き起こした政情不安定を制圧するためマリに出動した仏軍に対する抗議を示すためである。テロリストはリビアから得た武器を持ち、リビアからアルジェリアに侵入した。絶好の攻撃目標としてイナメナスという砂漠国境地帯に天然ガス・プラントがあり、そこで働く外国人が殺害の標的とされた。人質の身代金でテロ活動を拡大、継続する従来の目的とは異なる。国土を開発し、利益を持ち去る外国に対する憎しみが、国境を越えてイスラム過激派に広がる。その憎しみは具体的にどのように生まれるのだろうか。

  アフリカ諸国の農地は一般的に政府が所有する。マリでは政府が外国資本と取り引きして農地を譲渡したり、格安の賃貸契約を交わしたりする。外国資本はそこに大規模農業を導入するが、収穫は外国に持ち去られる。土地をなくし、家も取り壊された農民はホームレスとなり不毛の藪地に引きこもる。彼らの怒りは外国や自国政府に激しく燃え上がる。そこにテロリストの手が伸びて、反抗の道具とされることは容易に想像される。

  外国で事業を行うには、互いの利益となる基盤を作り、現地の民意や文化に対する尊重、理解の態度が欠かせない。日本人「企業戦士」は武器を持たずに、国際商業活動の前線に立つ。それは元来、日本経済の高度成長期に使われた言葉だったが、人質として命を企業に捧げたこの人たちは、テロに対する厳重な警戒態勢は敷いていたが、政府などから身の安全を保障されてはいない。国境を越えて結びつき、際限なく流血の闘争を続けるイスラム過激派と政府軍、外国軍の対立の中にいる。日本を見れば不況は20年を超える。国民経済をプラス成長に転じるため安倍政権は2%成長の積極政策を進める。お札も増刷されるが、それが購買意欲をどれだけ刺激するかが注目される。新たに発生してきた内外の問題を処理する政権の慎重、果敢な取り組みが望まれる。
(岩手大学名誉教授)


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