盛岡タイムス Web News 2013年  3月 12日 (火)

       

■  〈詩人のポスト〉 「春浅く」藤野なほ子

  
凍っていた筈の かたい土の間から
刀の刃先を並べたように
小さな緑の芽がのぞく
ゆるんだ土の間から
黄色い花が目をさます
ふわっと 土のにおいを風が運ぶ

かたく凍えていた 出口のない冬の塊は
急な陽気で 跡かたもなく
土がゆげを立てている

長すぎた寒気の中に押しこまれ
消えていったものたち

窓ガラスが光っている

水かさが増した川は濁流となって
全てを未来へと押し流していく
何事も予定通りとは限らない中で
ここに生きていると 今を吸いこみ
虫達も動き始めている

また雪がちらつく
風が 冬枯れの野を渡っていく
気がつけば 誰もいない
後姿をみせて 遠い雪の向こうに
消えていった人達

朝の光の中で つららが
次第に細くなりながら虹色に輝いている

住み難いことも生き難いことも 知らず
戻ることのない時の流れの中で
それでもひとときの陽気にさそわれて
小さな生命が次々に生まれ
希望という芽を空に向けている


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